昨日は帰ってからヴァイオリンの練習をして、それから六角の皆に電話して……勝ち進んだ皆におめでとうメールやメッセージを送った。
ただ一校……比嘉の皆さんとのグループアプリでのメッセージ送信だけは出来ていない。
ただ、ちーちゃんに送ってもらった録画映像。
何回も何回も確認して、やっと一つの答えを見つけた。
「あのハゲ頭の先生が命令を下してたっ」
ちーちゃんが録画した映像ではとても小さくてなかなか気付かなかったけど、ハゲた頭の監督が何か合図をしたら甲斐さんがオジイさんに打球を向けたのだ。
「……それでも、やっぱりやったことには変わりはないんだけどもー」
モヤモヤする。
もうこう!ぐわんぐわんって、うにゅうぅってもやもやもやぁ!!みたいな感じでモヤモヤするのだ。
はっきり言えないけど、私には比嘉の皆さんに伝えたい言葉が出来た。
今日は頑張って伝えてみたいし、それは言葉で直接面と向かって言いたい。
よしっと気合を入れて、頬を左右から両手で勢いよくパンって挟む。すごくいい音が響いて、手を退けたら赤くなってた。
ヒリヒリする。もうちょい自分を労わって力加減をどうにかすれば良かった。ヒリヒリ痛い。
少しだけ鏡の自分に向かって笑ってみる。
いつも通りの間抜けそうな私が笑ってて、普通に笑えてると安堵した。
「詩織!」
「流夏ちゃーん!今日はありがとう!!」
「いいよ。立海の人らの試合を見とけばいいんでしょ?」
「うん!お願いします!時間が少しズレたりして始まるところがあると言っても、全部は追えなくて……」
はいはいと頭を掻きながら流夏ちゃんは私の頭を撫でてくれる。
「なんだろう……今日の流夏ちゃん優しくて幸せ」
「実は手のひらの中にミニ下敷きを仕込んでたー」
「?!ぎゃー!!私の髪がホザボサに!!」
ケラケラ笑いながら流夏ちゃんが手を振って私から離れた。立海の試合が始まるからと三番四番コートに向かってくれている。
私は一番二番コートに急いだ。
まずは四天宝寺と岡蔵って中学校の対戦があって。それから隣で不動峰が牧ノ藤学園と対戦するらしい。
その後、一時間ぐらい後に五番六番コートで比嘉と青学の皆さんの試合。それから隣では氷帝と獅子学の試合も行われるとの事だ。
だから、光くんや深司くんの試合は初めの方しか見れないけど……でも、二人に声をかけれたらいいなって思った。
もちろん、他の皆さんにもだ。
五番六番コートの試合が始まると同時に始まる七番八番コートにて行われる名古屋聖徳と山吹の試合が見れないと思ったから、十次くんを初め山吹の皆さんにもメッセージやらメールやらを送っておく。
それから名古屋聖徳で参加しているクラウザーくんにも。
パンダ詩織>がんばれ!
平仮名でそれだけ送ったけど、ちゃんと伝わったらいいなと願う。
「橘さん、深司くんっ、アキラくん、鉄くん、京介くん、雅也くん、辰徳くん!えっとねぇ!!がまだせっ!!」
「……ふっ、ははっ!」
熊本弁で前に橘さんが応援してくれたなぁと思って気合い入れて皆の前で応援席から大声出したら、橘さんに笑われてしまった。
「ぬしん心に応ゆるばい!」
ニッと口角を上げた橘さんが男前で、思わずホケーっと見惚れてしまう。
「……え、ちょっと待って……神尾、俺もう頭痛くなって来たんだけど……詩織のあの顔腹立つんだけど……」
「……アイツ、まじで馬鹿だな!!」
「な、なんで深司くんとアキラくんにそんなことを言われなきゃならないんだ!非常に理不尽で意味ワカメなんだけども!!」
「……いや、横から見てただけの俺でもわかる。夢野が悪い!」
「き、京介くんまで酷い!!いいもん、今から四天宝寺の皆さんのところで癒されてくるもん!……はっ!光くんが睨んでて癒されそうにない……!やっぱり行くの辞めようかな……」
「ぷはは!」
「あーもう、また森がツボにハマり始めたー……」
四天宝寺の応援席に向かおうと足を向けた私の背後で、辰徳くんの笑い声と雅也くんの項垂れた声が聞こえたのだった。
112/140