オジイは無事だったけど、夏が終わったな……なんて仲間たちと話して。
剣太郎とダビデと六角予備軍の皆に後は任せようと笑った。
いっちゃんは鼻水垂らしながら泣いてて、首藤も男泣きしてるし、バネはそんな二人の肩に手を置きながらもらい泣きしてるしで、亮まで帽子を深く被って俯いたままで。
そんな様子を見てたら涙の引っ込んだ俺は、皆を元気づけることしか出来ない。
……あぁ、本当に終わったんだ。
──♪〜
携帯電話が着信を知らせたのは、仲間たちと別れて自宅でシャワーを浴びて脱衣所に出てきた時。
濡れた手をタオルで拭ってから、そっと肩にかける。腰にはもう既にバスタオルを巻いていたので、着信相手を確認してそのまま電話をとった。
「もしもし?」
『は!さ、佐伯さん、こんばんは!!』
声が若干震えている夢野さんに少しだけ俺の表情筋が緩むのがわかる。
「どうしたの?」
『い、いえ、オジイさんは大丈夫でしたか……?』
「ふふっ、大丈夫だよ。っていうか、剣太郎にもダビデにも電話して同じこと聞いてない?」
『はぐう?!ちが、違うんです、ちが、オジイさんのことはとても心配でしたが、何というか、皆さんのことも同じくらい心配で……ああああ、樹さんと首藤さんとバネさんと亮さんは守ってくれたのに、なんで、葵くんとダビデくんは言っちゃうの……!まるで私が鳥頭の馬鹿みたいじゃないかぁ!』
あぁ、彼女なりに会話の掴み的なあれだったのかなと、本人に伝えてしまったことを反省する。
だけど、電話向こうで慌てている様子の夢野さんを想像したら、おかしくって、それから可愛くて笑ってしまった。
『……は!佐伯さん?』
「ん?ごめんごめん、君があまりにもおかしくて。あとごめん、少しだけ変な音が入るかも」
『え?』
「俺、シャワー浴びた後で、今……裸なんだよね」
『ぶわっ?!』
すみませんすみませんすみません!と謝り始めて電話を切りますと言い出した夢野さんに「切らないで」と告げる。
「夢野さんの声聞いてると、不思議と落ち着くから……だから、ちょっとだけ待って」
『は、はい……』
静かに頷いた夢野さんにまた自然と目を細めてしまった。
こんなところを家族の誰かに見られたら、気持ち悪がられるかもしれないなと思う。
布が擦れる音がたぶん入るだろうからって言ったら『ど、どうしましょう……超エロいです恥ずかしいそしてやっぱりエロい』と独り言が聞こえてきて、ぷっと思わず笑ってしまった。
「何を想像したかは聞かないけど、着替え終わったよ」
『……よ、よかったです、私もなんとか無事です』
「あはは!」
真剣そうな声がもうおかしくてたまらない。
無事じゃなかったら、どんな状況なのって聞きたい気持ちをぐっと堪えて「……電話ありがとう」と囁くように呟いた。
『い、いえ……!私、電話ぐらいしか出来ないし……また今度、私のヴァイオリン聴いてくださいねっ!六角の皆さんのイメージ曲作りますからっ』
「うん。それは楽しみだよ」
耳からするっと入ってくる柔らかい声が、脳の中に浸透していくのがわかる。
心地よくて、この声をずっと聞いていたい。
『佐伯さん、あの……おやすみなさい』
「あぁ……、うん。おやすみ……」
だから彼女からそう言われた時、愕然と寂しさが広がって。
おやすみ、と告げるのがこんなにも名残惜しくて、切ないものだったかな、なんて思った。
──試合が終わって、駆け寄って肩を貸してくれた夢野さんをギュッと抱き締めたのは、身体が疲れていたとかじゃなくて。
俺の中の精神的な部分で、どこか弱っていた部分がそうさせたんだと思ってた。
でも今なら違うとはっきり否定できる。
君と繋がっていたい。
肉体的でも、ただ声だけでもいい。
終わった夏を、また始まらせるために。
111/140