君に会えない時間が長かった
「……あっ」

伸ばした手が空を掴み、後ろから永四郎の視線を感じて慌ててその手を引っ込めた。
僅かばかり出た声にカァっと顔面に一気に熱が集まる。

……わんは、夢野に何を言いかけたんやし。なんて声を掛けようとしてたんだろうか。

自分自身持て余しているこの感情に名前があるなら、それは『恋』なんだとは思う。
間違いなくわんは、夢野が気になって仕方がない。
あのサバイバル合宿で見せた夢野の強さと弱さ。泣いてる顔も笑ってる顔も、いつもわんを驚かせたり焦らせたり……。
そのサバイバル合宿から、たった二週間くらいだったに違いないのに、離れてしまっていた時間が異様に長かった。うちなータイムかなってほど、時間がゆっくり流れていたと思う。

氷帝の応援席の方へ向かって歩いていく夢野を見ていたら、遠慮がちに一番上段の端っこに一人腰掛けていた。
それから不意にわんを見る。

「甲斐さーん」なんて。
そんな甘ったるい夢野の声が聞こえた気がした。
ニコニコとわんに向けて振られた手に恐る恐る手を振り返す。
心が落ち着かなくて、妙に温かくて。太陽(てぃーだ)みたいな温もりだと思った。

そしたら、夢野に手を振りながら近づいた女生徒がいて、さっきの視線も手を振った先もそいつ宛だったことに気づいてカァーっとまた赤面してしまう。
もう死にたい。恥ずかしい。わんは今すぐ沖縄に帰りたい。

両手で顔面覆って項垂れていたら「……裕次郎、何一人でコントしてるさー」と凛に背中を叩かれた。
うるさい。わんが1番わかってるし!

ちらりと指の間から夢野を見たら、その友人らしき女生徒に連れられて、一番前列へと案内されていた。
氷帝の忍足がそんな夢野の頭を優しく撫でて、何やら耳元で囁いてる。

いや、近い。
近すぎだばぁ!!

仄かに頬を紅潮させた夢野を見て、今度はモヤモヤしたような感情が募った。

「……勝って来い、裕次郎」

「……はいでぇー!」

凛の言葉にぐっと握り拳を作って返事を返す。
それからラケットのグリップを握りしめながら、対戦相手の佐伯に向き直った。



──久しぶりに会えた君の視線を奪うためには、わんは勝ち進めるしかない。


ここずっと行ってたメッセージのやり取りを思い返しながら、今からする試合は夢野の反感を買うかもしれないと覚悟した。
それでもわんは、わったーら比嘉中は勝つのだ。


──もし、それでも君が太陽のような笑顔を向けてくれるなら……


その時は、この気持ちを打ち明けたいと強く強く思った。

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