彼らの夏はより熱く
──滝先輩の婚約者騒動からもう丸々三日が経った。
その間も私は仁王さんに会いに行けず。
なんというか、コンクールの為にと榊叔父さんが曲を聴いてくれたのだけど、どうにも練習不足だと気づかれてしまった。
確かに最近気が緩んでお出かけが多かったかもしれない。
そう思って、私はヴァイオリンの練習に励んでいたのだ。

この分なら榊叔父さんにもう二度と練習不足を指摘はされないだろう。
それぐらい一心不乱だった。
だからその三日間は夜寝る前にその日来たメールやメッセージの返信をしていた。

「……そして今気付いたけど、テニス部の全国大会明日からなんだ……」

皆さん私が集中してヴァイオリンの練習をしてるって分かってからは、あまり全国大会の話題を振ってくれてなくて、檀くんからの「明日から全国大会ですダーン!」というメールでやっと気付いたのだ。

幸村さんを代表に、告白の返答を保留状態にしている方が何人かいらっしゃるのと。
滝先輩や忍足先輩みたいに、人をからかってるのか本当のことを言ってくれてるのか分からない人がいて。
若くんと光くんの口付けの真意も、本当は分かっているのに口に出したら友達としての何かが終わってしまう気がして、勇気のない私には何も出来なくて。
もうそれらを考えるだけで頭はパニックに陥ってしまう。

恋愛漫画や小説の主人公は、どうして運命の人をすぐに発見できるんだろうか。
その人だけがキラキラ輝いて見えるのだろうかと唸ってみたけど、私にはテニス部の皆は本当に誰も彼もキラキラしていて、その考えに至った時思考が停止してダイニングテーブルに突っ伏してしまい、額を強く強打した。
超痛かった。
赤くなった額を擦りながら、珍しくテーブルの上に置きっぱなしのワルキューレへと手を伸ばす。

「……お母さんがいたら、……相談するのにな」

流石にお父さんには出来なかっただろうけど、同じ女としてアドバイスくらいくれたかもしれない。
そうやってポツリと漏らした独り言は当たり前のように床に消えて、お母さんでもないワルキューレは一音も返答はくれなかった。








「あー!貴女はっ!」
「ちょ……朋ちゃん、夢野さんは先輩だよ?」
「わかってるわよー!それで、今日は氷帝の応援ですか?」

関東大会の応援をしていた時に仲良くなった(と私が勝手に思っている)朋香ちゃんと桜乃ちゃんに手を振ると、朋香ちゃんの方が頬を膨らませていた。
朋香ちゃんも桜乃ちゃんもリョーマくんのことが大好きみたいで、ファンクラブというものも創設させたらしい。

「そうだねー。氷帝の応援メインで他校も仲良くなった人達いるから、応援したいなって。勿論、青学の皆も」
「あ、でも、青学は今日試合ないんですよー」
「うん、そうらしいねぇ」

朋香ちゃんの言葉にうんうんと頷いて、さっき見てきた大会案内の試合一覧のボードを頭の中で思い出す。

氷帝は椿川学園と対戦で、そのコートのすぐ横で六角と比嘉の皆さんが試合をするらしい。
それらは見れるんだよなーと思いつつ、同じ時間帯で違うコートでやる、不動峰の皆と山吹の皆の試合が見れないなぁと悲しい気持ちになった。
ということもあってここに到着した時に、それぞれの皆さんへとメールやメッセージを送っておいたのだ。
返信はまだ来てないけど、試合前だし……と、頑張れと念を送っておいた。


「……あれ?朋香ちゃんと桜乃ちゃんは?」
「開会式だけ見てきた帰りなんですよー!」
「そうなんです」
「そっかぁ。じゃあ今日はもう帰るの?」
「はい、堀尾くんたちと」

そう緊張気味に可憐に微笑んでくれた桜乃ちゃんにキュンとする。なんて可愛いんだろうか。彼女の長いおさげはイメージピッタリでよく似合っている。
それに朋香ちゃんもツインテールが可愛いし(白石さんの妹さんの友香里ちゃんのツインテールも可愛かったけども)それに跡部様と同じ右目の下の泣きボクロはチャームポイントだと思った。

「あ、夢野さんじゃん!煩く騒いじゃダメですよっ」
「「ほ、堀尾くんっ」」

それから、二人の元に走ってやってきた堀尾くんの台詞に盛大にイラッとして、カチローくんとカツオくんがオロオロしているのを横目に、彼の背後に回って膝カックンして逃げたのだった。

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