ホームセンターに寄ろう
──曲を奏で終わってから、オーディンの持ち主の男の子に「ありがとう。それからヴァイオリンのこと、これからも好きでいてね」と伝えて返した。
キラキラした目で私を見て頷いてくれた男の子が、もっと音楽を好きになりますように。ヴァイオリンを好きでいてくれますようにと願う。
遠い未来、いつか彼と同じ舞台に立てたらどれほど素敵だろう。
その為には、私はコンクールを頑張って克服しなくてはと誓った。

それから丸井さんの弟くんたちの頭を撫でて、丸井さんと仁王さんに「また」と告げる。

「あぁ、またメッセージ送るぜよ」

そう目を細めて自身の髪の毛を弄っていた仁王さんは、少し色っぽかった。
丸井さんは「なら俺も!」と続けて下さって、いつもの笑顔で「またな!」と背中を叩いてくる。力加減がちょっと強かったけど、弟くんたちが可愛いし、飴玉レアだったから許した。

「許した、とか偉そうなこと言うな」
「あ。しまった!」
「アホ夢野」

口を抑えてから、デコピンしてきた丸井さんに笑う。

それから公園の入口にいる人たちへと視線を向けた。

「幸村さん、柳生さん、真田さん、柳さん、ジャッカルさん、赤也くんも!……また!」

勇気を振り絞ってそれだけ吐き出して手を振る。
気持ちの整理や感情は色々追いついていないけど、それでも失礼なことはしたくない。……あやふやな気持ちのまま答えを先延ばしにしているのが一番失礼だとつっこまれたら、もはや謝るしかないけども。

「流夏ちゃん、今日はお誘いありがとうだよ!流夏ちゃんのこと、本当に本当に大好き!!」
「……うん。私も詩織が笑っているとこが好きだから。……また電話する」

流夏ちゃんのせいじゃないからねと頭の中で強く念じたけど、通じたかはわからない。でも爽やかな笑みを浮かべてくれた流夏ちゃんは、誰よりも男前だと思った。







電車の中で長い時間揺られて、自宅から一つ手前の駅で降りる。
もう既に時刻は夕方の五時半を回っていたけど、まだまだ空は明るかった。

一つ手前で降りたのには理由があって、この駅のすぐそばに大きめのホームセンターがあるからだ。
大石さんからの助言メールにて、金魚用の水槽フィルターは必需品だと聞いたからである。
それから水草なども見ようかなと思った。
あと、昨日はまだ知らなかったけど、慌てて買った金魚の餌は一週間ほどやらない方がいいと教えてもらう。
本当にまだ餌をやる前でよかった。
どうもストレスなどで酸欠になっているだろうから、餌を食べると体力を消耗して死んでしまうことが多いらしい。
確かに、業者さんから運ばれて揺られて、色んな人間の手に追いかけ回されて。狭い袋の中でまた揺らされて……いきなり新居に引越しである。

「私なら必ず吐く……」

「水草を眺めながらその台詞……君じゃなくても、食べたら吐きそうな人は多いのではないだろうか」

隣に突然現れた長い影に心の底から驚いた。

「……だから心臓が口から飛び出して死んだらどうしてくれやがるんですか」

「前にも言ったが、そんな死亡例は世界を探してもないから心配しなくていい。そして今日は口が悪いな。何かあった確率100パーセント」

キラリと光った眼鏡の逆光に私は諦めて溜息をつく。
今日は流石にもう誰にも会わないだろうと思っていたのに、その予想は完全に外れたわけだ。

「遅くなりましたが、乾さん、こんばんは!昨夜ぶりですね」

「あぁ、これほどすぐに君に会えるとは、嬉しい誤算だよ」

データ集めへのご協力ありがとう。と小さく呟いた乾さんはそのまま「それは立海の制服だろう?」と私の全身を確認してから薄く笑ったのだった。

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