『詩織──』
「流夏ちゃん、今どこですか!」
『──見つけた!!』
校舎を出た私の元に、正門前から走ってやってくる流夏ちゃんの姿が見えた。
私も思わず駆け寄って、ぎゅうっと抱きつく。
もう顔も耳も全部真っ赤で、火照った身体は絶対に隠せない。だから思いっきり流夏ちゃんに縋り着いて「……男女間の友情と恋愛は難しい」とだけ吐き出すように呟いた。
「……はぁー……。ここに呼んだ私が悪かったよ。本当にごめん」
「流夏ちゃんのせいじゃないよ!!」
必死な声でブンブンっと流夏ちゃんの胸の中で首を横に振る。
「……ほら。なんとなくさ。詩織も私から離れて恋愛とかすんのかなぁって思ってさー。私的には氷帝とか四天宝寺の人とか、詩織のこと、大切にしてくれそうな人いるなーと。……その前に思い出作りたかったのよ。彼氏とか?そんなの出来たら私の事忘れちゃうかなーって」
「やだ。流夏ちゃんを忘れるなんてない。流夏ちゃんがいい。流夏ちゃんが私の彼氏になって」
「あはは、そりゃ無理だ」
やっぱり詩織にはまだまだ早かったかーと続けてから、少しだけ嬉しそうに白い歯を見せて笑った流夏ちゃんは「もう少しだけ過保護な流夏ちゃんでいて見せよう」と私にデコピンしてきた。
そんな流夏ちゃんを見たら、突然安心して私のお腹の虫さんがグゥギュルルっと訴え始める。
「……相変わらずお腹の音すごいな」
「……え、えへへ」
そっと手を繋がれて、流夏ちゃんの手の平が汗ばんでることに気づいた。よくよく見たら、流夏ちゃんは汗だくだ。
私を探して走り回ってくれたんだと思って、また涙が出そうになったけど、必死で我慢したら「詩織、アンタ今、犬のちゃうちゃうみたいな顔してる」と爆笑される。辛い。
それから立海近くの商店街の方角に歩いていくことにした。
そこまで大きな通りではなかったけど、昔ながらの店もまだいくつか残っている。
そして真新しいヴァイオリン教室のビルを見つけて「おー」と思わず感心してしまった。
そのビルの横の小さな公園で小学生の男の子たちが数人ヴァイオリンを弾いている姿を見て、ウズウズと指先が動く。
でも大切な相棒のワルキューレはお家に留守番してもらってるから、ここにはいない。だからなんだか悲しくなってきた。
「うう、ヴァイオリンが恋しい……っ!私のワルキューレぇ」
「お腹空いたんじゃなかったの?」
苦笑している流夏ちゃんの声を聞いたあと、ふわっと美味しそうないい匂いがする。
「わー、すごい。めっちゃ行列!!」
新しいラーメン屋さんみたいだ。
テレビとかに出たのか、若い女の人たちも並んでいて、年齢性別問わず人気が窺えるお店だった。
「でも……並んでたら食べれるの何時になるんだろう……」
「ラーメンだから回転は早そうだけどねー」
っていうか、アンタもうラーメンの口になってるでしょ?とつっこまれて、はい。超なってますと大きく頷いた。
「あれ?でもここもラーメン屋さんだ……」
「ちょっと待って。ラーメン桑原って……」
私の視線に気づいた流夏ちゃんが何かに気づいたようにハッとするが、私にはよくわからない。でも確かに響きが何かに引っかかるような……
と思ったところで。
「よいしょ……あっ!」
「おわっ?!ジャッカルさんだ!!」
ラーメンの繁盛店の目の前にある古い暖簾のラーメン屋さんから職人さん的な格好で出てきたジャッカルさんに目を見開いた。
そうか。
ラーメン桑原って、ジャッカルさんの名前と一緒なんだ。
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