夏祭りに行こう
「た、タマちゃん!本当にこの浴衣借りていいの?!」
「うん、いいよ〜。私、浴衣五着くらいあるから〜」

タマちゃんはのんびりとした口調でそう答えながら、淡い黄色の色合いに牡丹の花が映えている浴衣でくるくると和室を回っている。
ちょっと、いやだいぶ可愛い。

私のはタマちゃんの見立てで、濃い桃色の浴衣生地に白色の椿が咲いていた。
タマちゃん曰く、白い椿は完全な愛らしさを象徴しているらしい。
それは私に不釣り合いなのでは……と思いつつ、でもタマちゃんが折角選んでくれたんだから、可愛く着こなしてみせる……!と無駄に気合を入れた。

「タマちゃん、今度お礼にアップルパイ焼くねっ!!」
「わぁ、それは楽しみ〜。……っと、頭の飾り、ヴァイオリンのバレッタ付けるんだっけ?茶色だからいいけど、その隣に椿の飾りつける?」
「わかんないから、タマちゃんに任せる!」
「よしおっけ〜!……でも詩織ちゃん、バレッタもヴァイオリン型のやつ持ってたんだねぇ。私、パンダ付けてきたらどうしようかと〜」
「あ、それ、今日長太郎くんに買ってもらったんだよ〜」
「っ?!いぃぃぃぃいつの間に?!」

私の髪の毛を結いながらタマちゃんが鼻息荒くなった。その勢いに言わない方が良かったのかなと思ったけど、何やらタマちゃんは黄色の手帳を取り出して「鳳くん一リード……」とか口にしながらメモをし始める。

しかし、タマちゃん家は初めて来たけど、すごく大きい和の屋敷だった。怖そうなお兄さん達が何人もいて、きっと私の勘違いでなければ、裏の家業を生業としている人たちに違いない。

「タマお嬢!もうそろそろ時間ですが」
「はいはい〜、わかってるよぉ。ごめんねぇ、詩織ちゃん。勝手に扉開けてくる馬鹿ばっかりで〜……今度開けたら〜鯉の池に餌としてばらまいちゃうぞぉ」
「す、すいません!」

私が無言でそのやり取りを見つめていたら、タマちゃんはにこやかに私の髪を結い終わってくれた。

「ありがとう!タマちゃん!」
「……詩織ちゃん、その、平気?」
「え、何が?」

首を傾げたらタマちゃんはフルフルと首を振ってギュッと私の手を握ってくれる。
二人でリップグロスを塗って、お揃いの色違いの巾着を持った。

「私、タマちゃんのこと大好きだし、タマちゃんはタマちゃんだからねぇ〜」

もしかしてお家のこと気にしてるのかなって思って黒塗りのベンツに乗せて貰う時にそう声に出す。タマちゃんは「ちーちゃんと同じこと言う〜二人とも大好き」って言って笑ってくれた。




暫くして夜店がたくさん並んでいる通りに出て、車ではここまでかなってタマちゃんが言って、二人して下ろしてもらう。
帰りにまた迎えに来ますって言ってくれた運転手さんだけど、タマちゃんは「うんうん、でもその時は私一人かも〜」と笑っていた。

「え、私、なんか神隠しにあうの?!」
「あはは、そうそう〜詩織ちゃんは絶対神隠しにあうよ〜。神隠しっていうか、テニス部隠し……?」
「何それ、余計に怖い!!」

顔を青ざめていたらタマちゃんはクスクス笑いながら「ほら、青学の人達発見〜!わぁい、不二さんもいる〜。あ!あれが噂の越前くん〜!」と神社へと向かう石畳の階段前で青学の皆を発見した。
タマちゃんと一緒にぶんぶんっと手を振って、待ってくれていたらしい皆さんの前に移動する。

「遅くなりました!すみません!」
「いや……」
「夢野は遅れてないよ。ちょうど今十八時になったところだ」

謝ったら、手塚さんが首を静かに横に振られて、乾さんが時計を見ながらニヤリと笑ってくれた。

「ぶーぶー!夢野ちゃんを誘ったのは俺なんだから、先に挨拶させてよねっ!」
「いや、俺っすよ」
「ええ?俺だよ?!」
「いやだから、俺も誘ったんすって!」
「お二人ともお誘いありがとうございました!」

菊丸さんと桃ちゃんが何やら言い合いを始めそうだったので二人に被せるように声を張り上げたら、すごく大きな声になってしまう。くそう、視線を集めてしまった。恥ずかしい。

「詩織センパイ、浴衣似合ってるじゃん。いいんじゃない」
「え、ありがとう?でもなんでそんな偉そうなの?!リョーマくんも似合ってますが!」
「どーも」

それから、リョーマくんが浴衣を褒めてくれたのかよくわかんなかったけど、一応お礼を伝えておいた。
それから、タマちゃんを紹介して、タマちゃんは不二さんと「お久しぶりです〜」とやり取りしてニコニコしている。

「河村さんも大石さんも薫ちゃんも今晩は!皆さんの浴衣姿、後で写真に撮っていいですか?」

「え、あ、うん。俺ので良ければ」
「こんばんは。ははっ、英二と桃が浴衣着てこいって言ってたのは、夢野さんの為だったんだね」
「ふしゅうぅ……まぁ、アンタが撮りたいなら別に構わないが」

皆さんの返答に手放しで喜んで、タマちゃんとふふふっと顔を見合せた。
まず菊丸さんと桃ちゃんに浴衣着用を命じられたわけだが、やはり女子だけとは些か不公平である。なので、お願いしていたのだ。男子の和服姿は個人的に萌えポイントが高い。

さて夜店を楽しみながら花火の時間まで回るかとなったところで「あ、あれ?!兄貴?!」と突然声が掛かった。

「ほら、淳に便乗して正解だったろ」
「いや、亮だけかと思ったら全員で来るし……」
「んふっ、木更津くんたちはこれを予期していたんですか?なかなかやりますね……わざわざ千葉からご苦労様と言いますか……」
「浴衣着てゆかった〜……」
「ダビデぇぇぇっ!」
「つか、なんで夢野は青学と一緒なんだーね」
「裕太はいいとして……佐伯まで?」

不二さんが眉根を寄せたところで、もう一つ石畳の階段の上から「あ」とまた声がする。

「青学の……って、なんで夢野まで?!ゆ、浴衣着てるしっっ」
「神尾煩い。……え……っていうか、何……?俺が遠慮しようかなって思ってたら、誰か詩織に連絡したわけ?ちょっと……いや、だいぶムカつくなぁ……」
「手塚、また会ったな」
「橘か。不動峰も夏祭りに来ていたのか」

タマちゃんの方を向いたら「これで全部?!」って顔でキラキラしてるから「い、いや……もうこれ以上はないんじゃないかな……」とから笑いした。

ただ、ただ一つ。

どこからか跡部様の高笑いが聞こえてきそうな予感はしている。

とりあえず、夏祭りを楽しもう!そう気合を入れて美味しそうな匂いにヨダレを垂らすのだった。

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