贈り愛?
「あ、ここソース付いてるよ」
「わ」

目の前でご馳走様と口に出した詩織ちゃんの唇の横にソースが付いていたから、テーブルにあったナプキンで拭ってあげた。

「えへへ、ありがとう〜」

恥ずかしそうにへにゃって笑顔を浮かべた詩織ちゃんに俺も頬が熱くなる。

入ったのはカジュアルなフレンチのレストランだったけど。
入る前に「え、高……高くない……?!」って詩織ちゃんが目を見開いていたから、少し敷居が高い店だったかなと焦ったけど、両親と行く店よりかはだいぶ雰囲気は学生でも入りやすいはずなんだけどと、とりあえず詩織ちゃんを席に座らせて。
食事が終わった今はすごく満足そうだったから、やっぱりこの店にしてよかったと思う。

「私、長太郎くんも跡部様や榊叔父さんに近い匂いがすると思ってたんだよ。私の感は正しかったと思う」
「え?」

詩織ちゃんの独り言に首を傾げたら「な、なんでもないよ!」とあわあわと口を抑えていた。
そんな彼女の姿に小さく笑う。
もう詩織ちゃんの独り言は慣れたから、そんなに気にしなくてもいいのに。

「俺、何言われても君を嫌いになれないと思うから」
「へ?」
「ううん。こっちの話」

ニコって微笑んだら、詩織ちゃんが一気に赤くなるのが見えた。
少なからず、俺に対してそういう反応をしてくれるのが、どことなく嬉しい。



それからレストランを出たところで、雑貨屋さんが目に入ったから詩織ちゃんの手を引いた。
女の子の小物から日用品までなんでも売っているみたいだ。

「あ、長太郎くん!エクスタシーって書いてる香水がある……!」
「え、それ、大丈夫?変な感じのやつじゃなく?!」

突然、詩織ちゃんがそんなこと言うから慌てた。白石さんには悪いけど、例のセリフが名前に着いている商品なんて大人の人向けの商品しかないと思ってたから、詩織ちゃんが指さしたやつが本当に普通の香水メーカーから出てるやつで胸をなでおろす。

「うん、これ、白石さんに贈ろう。魔法の杖のお礼に」
「そっか……」

詩織ちゃん、さっきの食事の時も割り勘にこだわっていたし、貸しを作るのが嫌みたいだ。先日のテーマパークで白石さんから買ってもらったという杖のことを気にしていたんだろう。

香水の試供品の香りを嗅いで、軽い感じの匂いだったから、いいんじゃないかなと答えておいた。
白石さんのプレゼントには下心が詰まってる気はしてるから、詩織ちゃんのお返し作戦に大賛成だ。
詩織ちゃんがレジに行ってくるって駆けていく。どうやら、この店から大阪の白石さんに送ってくれるらしい。一度スマホで誰かにメッセージを送っていたから、本人に直接なわけないし……と財前くん辺りに聞いているのかなとなんとなく思った。




「……あ、これ」

それから店を出る前に詩織ちゃんにこっそり購入して包装してもらってた袋を手渡す。
「え?!」ってビックリしてたから、サプライズ成功かなって思ったら、詩織ちゃんも小さな袋を持ってたから驚いた。

「え……」
「えっとね!今日、わざわざ休みなのに付き合ってくれたお礼にって!」
「俺は詩織ちゃんに似合うかなって思って……」
「ふふ、贈りあいっこだねっ!ありがとう!」
「こ、こっちこそ、ありがとう……!」

ちょっと調子が狂ってしまったけど、詩織ちゃんが嬉しそうに笑うから、細かいことはどうでも良くなる。

「開けていいかな?」
「うん!私も開けていい?」
「もちろん」

じゃあ一緒にって同時に開けたら、俺の袋の中に入っていたのは、ヴァイオリンの弓の形をしたネクタイピンだった。

「氷帝の制服に付けれるかなぁって……長太郎くんに似合いそうだと思って。私のは……ヴァイオリンのバレッタ!ありがとう!」

嬉しいって満面の笑みを浮かべた詩織ちゃんに胸が締め付けられるような想いになった。それから「俺も、これ、ちゃんと付けるからっ!ありがとう」って返す。

あぁ、この瞬間に時間が止まったら、俺は幸福の中の住人として生きれる気がした。


「えへへ、今日早速夏祭りに付けていくね!髪アップにしようと思ってたから……」
「…………え?」

次の詩織ちゃんの台詞に首を傾げる。

「昨日──っていうか、マンションに送ってもらってから気付いたから今朝なんだけど、菊丸さんと桃ちゃんからメールがあって、近くで夏祭りがあるから遊びに来ないかって。花火も上がるみたいで、タマちゃんに聞いたら、主催に私の家も寄付してるの〜って言ってて、豪華みたいだよ!だから、タマちゃんと一緒に」

ちーちゃんは彼氏さんとお出かけらしくて、流夏ちゃんは大阪旅行で疲れたからパスらしいんだけど……とそこまで続けた詩織ちゃんの顔が俺を見て固まってた。

「ちょ、長太郎くん……?」

キョトンとした顔で俺に首を傾げて上目遣いな詩織ちゃんは可愛いけど、これはすごく一大事な気がする。

どうでもいいんだけど、ちょっと他校の人達、詩織ちゃんと約束取り付け過ぎじゃないだろうか。

「……ちなみに何時ぐらいに待ち合わせなの?」
「え……十八時ぐらいだったかな……」

ありがとう、と笑ってから、詩織ちゃんと駅で解散した俺は急いで氷帝のいつものメンバーのグループアプリにメッセージを入力する。

俺だけに相談が来たのをいいことに、今日少し詩織ちゃんを独り占めしてしまったけれど、この情報でそれは許してもらえるかなとかぼんやりと思った。

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