ご利用は計画的に
「詩織、この紅茶を飲んで落ち着くんだ」

そう言って榊おじさんが手渡してくれた紅茶を飲み干したのは数分前。

流夏ちゃんの説教を聞いていたら、手塚さんが個人的にまた謝罪されて。いやもう手塚さんや樺地くんに怒ってなんかいないもんだから、もう身体中がむずむずした。
私が怒りを向けるべきは、船の中で眠ってしまった自分自身にだ。
あのミスがなければ、榊おじさんや跡部様たちに迷惑をかけることはなかった。
私のいない充実したサバイバル合宿を繰り広げられていただろう。
本当に申し訳ない。

それから光くんと会話していたら、流夏ちゃんと榊おじさんに呼ばれて、テニス部の皆はこのままここで合宿を続けるという話だった。もちろんもう料理の心配はしなくていいし、新渡米さんや喜多くんも合流する。
そして私と流夏ちゃんは当初の予定通りホテルに缶詰である。いや、ヴァイオリンの練習するのは私だけで流夏ちゃんは明日にはまた陸上部の練習に戻るとのこと。

「木手さん、甲斐さん、平古場さん、知念さん、田仁志さん、不知火さん、新垣くん、お元気で!!」

「はいはい、貴女もお元気で」
「もう泣くなさー!」
「転けんのもなしさー」

色気ないパンツ見えるから、と続けた平古場さんに木手さんと甲斐さんに頂いた癒し成分が消去される。そして最後にまた新垣くんに頭撫でられたと思ったら無言でそのあと知念さんにまで頭撫でられてたので固まってしまった。

「また今度、ばんないうぶんくれさー」

とりあえず田仁志さんの食いしん坊ポジションがやっぱり可愛らしかったので、知念さんのミステリアスな行動はひとまず忘れることにする。

「光くん、金ちゃん、小春お姉さま、一氏さん、白石さん、小石川さん、石田さん、謙也さん、千歳さん、色々ご迷惑かけました」

「いやいやなんも迷惑なんかかかっとらんで?」
「そうやで、詩織ちゃんと一緒で楽しかったわ〜」

小石川さんと小春お姉さまの台詞にほっこりする。二人ともとても優しい。嬉しい。やばい。
いつもならここらへんで一氏さんが私を罵倒される。と構えていたら、一氏さんにぽんぽんと頭を撫でるように叩かれたから驚愕した。比嘉中の人たちといい、頭撫でるの流行ってるの?とアホな疑問が浮かぶ。

「アホか。……もうお前を罵倒すんのも馬鹿らしくなったんや。お前放っとかれへんアホやしな」
「どないしたんですか、ユウジ先輩、あそこの岩抱いて海にダイブしてきてください」
「財前しばくぞ」

そんな一氏さんと光くんのやり取りを見てたら、金ちゃんと千歳さんに抱きつかれていた。なんだって。

「は?金ちゃんはいいとして、何ですか。千歳さんは私をトトロとでも言いたいんですか」
「ただの抱擁たい。怒らんといて」

なんで抱擁されなきゃいけないんだろうか。
千歳さんは本当に何を考えているのかわからない。そんな千歳さんを見て様子のおかしくなった白石さんが怖かったので、石田さんに会釈してその場を離れた。
離れるときに謙也さんが「……つ、吊り橋効果やないんやで」と耳打ちされた。聞こえなかったことにしときたかったができなかった。
ただ「わかり、ました」とだけ返答して、ルドルフの皆さんがいる場所に走った。

「裕太くんと愉快な仲間たちの皆様、ありがとうございました!お元気で」

「ちょっと夢野さん!僕たちの名前もちゃんといってください。いえ、せめて裕太くんと僕だけでも」
「観月お前というやつは」

赤澤アニキが観月さんにため息を疲れたのを見て、小さく笑う。
それから、順番に握手してもらって別れた。

「ヴァイオリン頑張るだーね」
「お、応援してるから!」
「弟くん、それだけでいいのか?!」
「夢野さん、俺も応援してるよ」

柳沢さんと裕太くんと金田くんの応援が嬉しかった。野村さんはまた裕太くんに怒られていた。本当に懲りない人である。

「クスクス、コンクール応援に行くからね。それよりも前に会えたら遊ぼう。俺は亮と違っていつでも夏休み中デートできるから」

「淳!!」

木更津淳さんの台詞に返答に困っていたら、木更津亮さんが「練習のあと、俺だって」と続けてくださって。
そしたら、葵くんと佐伯さんが手をあげてくるし。六角の皆さんにも挨拶をと思ったら、デートに反応したのか千石さんまでいた。

「ヴァイオリンケース持てる少女はモテるケース?」
「ダビデぇ!」

天根くんとバネさんのやり取りに安心しつつ、首藤さんと樹さんに手を振った。それからくるりと千石さんの後ろにいた十次くんに足を向ける。

「十次くんもまたね!色々ありがとうだよ」
「い、いや、俺は別に……」
「ダダダーン!夢野さんがいなくなるのは、なんだか寂しいですダーン!」
「……壇にいいところ言われたな」
「ドンマイだ、室町」
「ドンマイだよー」
「うんうん」
「…………最悪だよ、あんたら」
「ケッ!バカばっかだな」

何故か十次くんが南さん、東方さん、喜多くん、新渡米さんに慰められてた。仁さんにも手を振ったけど舌打ちを返されただけだったのは言うまでもない。

「夢野、じゃーな!」
「頑張れ」

桃ちゃんと薫ちゃんは相変わらず爽やかだった。スポーツ選手の鏡か!と叫んだら不二さんに「夢野さんは本当に可愛いね」とクスクス笑われて。河村さんには困り顔で微笑まれていた。

「夢野さん、本当にありがとう。気を付けて」
「大石さんの方こそ無理しないで下さいね!」
「にゃはは!夢野ちゃんの言うことは聞かなきゃね!おーいし♪」

大石さんと菊丸さんは相変わらず仲がいいなぁと思う。

「リョーマくんもまたね!」
「うん。……ところでさ、さっき手塚部長と──」
「何を話していたんだ?」

リョーマくんにも手を振ったら乾さんが乱入してきたのでお辞儀をしてから不動峰のみんなのところに逃げる。手塚さんとはさっき会話したし大丈夫だろう。また謝られてもかなわない。

「……はぁ、ほんと、詩織がいないなんてつまんないよ。でも応援してるから。詩織ならできるよ。俺は信じてるから」
「やだ深司くん男前。惚れる」
「え……」

ボソボソと男前発言する深司くんに本当のことを言ったら、真っ赤になって異様に可愛かった。
それから森くんや内村くん、桜井くんと握手をする。握手ついでに頭を撫でられまくって「はげる!」って叫んだら目の前に鉄くんがいて「違う、鉄くんがじゃないよ!」と焦った。
「知ってる」と笑ってくれた鉄くんは本当に爽やかさの権化です。

「……お前のことを俺は絶対に好きにはならない!!」
「改めて言うことかな?!そろそろ泣くからね!」

何かしらんが神尾くんは決意をしたようだった。なんなの、リズムの人ひどいんだけども!

「……まぁ、神尾のは誰が見ても嘘だから気にしなくていい。……元気でな」

そう優しく笑って下さった橘さんまでもが私の頭を撫でたことに驚愕した。
橘さん、イケメンだな。しかしどうした。なんなんだ、私の頭を撫でるといいことが起きるのだろうか。

「イイコトというか、癒されるんじゃろ」

橘さんが離れたと思ったら、今度は仁王さんだった。

「んー……今の手つきはイヤらしい。減点です」
「な、なんでじゃ?!」
「夢野さん……!」

もう頭ナデナデもこんなにいろんな人にされると慣れてきた。私の頭を撫でるなら撫でればいいよ!と開き直ってみるが、さっきの仁王さんの手つきはいやだなと思ってそう言ったら、なぜか仁王さんの後ろにいた柳生さんが感動されていてどういうことかわからない。

「……俺、夏休み終わりのコンクール絶対見に行くって約束するから。だから、全国大会は絶対見に来いよ!つか来るだろい?」
「ま、丸井先輩ずるいっす!夢野、や、約束だからな!ひっ、三船に睨まれた!!」

丸井さんがあまりにも真剣な顔で言うから、大きく頷いた。切原くんも可愛かった。流夏ちゃんに睨まれたのは可哀相だったけども。
それからジャッカルさんと握手して、柳さんと真田さんとも握手する。柳さんと真田さんが何故か握手した手を離してくれなくて焦ったが、幸村さんが私の隣に立った時には二人は手を離していた。

「……うん、たまに息抜きしたくなったら、いつでも声をかけてね。俺は夢野さんの味方だよ。何があってもね」

幸村さんの言葉は嬉しい反面、どこか重たくもある。いつか何か私に幸村さんへお返しができるだろうか。こんなヴァイオリンしか能がない人間に何かできるならばいいのだけども。

「……っ、あれ?」

くらりと立ち眩みをした。

「っ、大丈夫か?夢野」

顔をあげれば若くんの心配そうな顔がすぐそばにある。

「えへへ、なんだか疲れちゃったのかな」
「まぁ……無理はするな」
「若くん、どうしたの。優しいね?」
「…………これでいいのか」

若くんが身体を支えてくれていたので、恥ずかしさもあって冗談言ったら、私の頬肉が可哀想なことになった。
痛い。つねるにしても、もっとソフトにしてほしい。

「詩織ちゃん、マジマジ寂しいCー!」
「……ウス」
「クソクソ!でもお前も頑張るんだもんな!応援しないとな!」
「ウス」
「俺たちも負けないよう頑張るよ!」
「ウスッ」

ジロー先輩、岳人先輩、鳳くんも天使だがそれよりも相槌を打って私の荷物を持ってくれている樺地くんは大天使じゃなかろうか。
なんだ、この大きなかわいい生物は。

「詩織ちゃん、それはそうとなんや気分悪そうやけど、大丈夫かいな」
「へ?」
「ホントだぜ。お前、さっきからフラフラしてねぇか?」

忍足先輩と宍戸先輩に左右から腕に腕を回されて身体を真っ直ぐに固定される。
そういえばさっきも若くんが肩を抱いて身体を支えてくれていた。

「んー、夢野さん、俺を見て?」

滝先輩も心配そうに私を覗きこむように見つめてくれる。

「……来たな」

そんな中、騒音が聞こえてきた。
ヘリコプターの羽音だった。
空を見上げた跡部様を見て、榊おじさんをみて、流夏ちゃんをみる。それからまたもう一度空から下降してくるヘリコプターを見た。

「は?なんだって?嫌だ」

バカじゃないのか。
なぜ移動がヘリコプターなんだ。

「アーン?どうした?夢野」
「跡部様っ!わかってますよね?!わかってて聞いてますよね?私は空飛ぶ鉄の塊にはもう二度と絶対乗らな──……っ」
「知ってるぜ」

最後に記憶に残っているのは、跡部様の美しいまでに完璧などや顔だった。

次にブラックアウトした世界から起きたときには、もう予定のホテルの部屋の中で。
流夏ちゃんと二人だった。

「あ、跡部様と榊おじさんめっ、覚えてろ!!」

榊おじさんから出された紅茶に眠り薬が入っていたと聞いたのは、その日の夕食時である。

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