罠と思惑と8
びっくりした。
詩織センパイがこの洞窟内で理不尽な罠にばかり見舞われるとは聞いていたけど、まさか自分も一緒に、なんて思わなかった。
ただ、いつものように当たり前に詩織センパイの太股に頭を乗っけて膝枕してもらってる芥川さんって人が気に入らなくて。
なんとなく面白くないから、邪魔してやろうかと思って二人と同じソファに座ったんだけど。

「ひょあぁあーっ」

相変わらず色気のない悲鳴を口にしながら、詩織センパイが髪をばさばさするぐらい頭をガクンガクン揺らしてた。
俺も体勢を低くして耐えようとするけど、かなり荒々しいソファの動きのせいで何回か上下に頭を振ってしまう。
芥川さんは寝てた。……ほんと、なんなのこの人。

何がどうなってるのか説明すると、まず座っていたソファが直下した。
床を抜けて真下に降りて、そのあとは謎のレールの上を走って移動させられてる。
本棚の後ろの隠し階段なんかよりも遥かに凝った仕掛けだと思った。

「わっ」
「ぎゃんっ!」
「んあっ?!」

どうやら終点に到着したらしい。
勢いよくソファから投げ出された俺たちは、ふかふかのベッドの上で数回跳ねた。
さすがにこの衝撃はすごかったのか、芥川さんが起きた。

「Aーっ、なにここー?どこだCー?」

「わかんないっすよ。俺にも」

辺りを見回せば、燭台の上に火が灯っているのがわかった。
おかげで部屋中見渡せる。
どうやら寝室みたいだ。それもすごい豪華な。
俺たちが投げ出されたベッドは天涯ベッドで、さっきまで動いていたソファは綺麗にベッドの足元に収まっている。まるでそこにはじめからあったかのように。

「よ、よかった。この部屋、明るいね!私もうここから動かないっ」

ボサボサになってしまった髪を手で撫でながら、詩織センパイはベッドの上にあった枕をぎゅうっと抱き締めていた。

「でも、動かなかったらまた変なのくるんじゃない?ほら、ゾンビとか出たんでしょ?」

有名なゾンビゲームの洋館にそっくりじゃんって続けたら、詩織センパイの顔色がはっきりと青くなる。

「大丈夫だCー!俺が守ってあげるからー」

「ジロー先輩の笑顔にこれほど癒されたことはあっただろうか。いやない。普段も癒されてるけど、この時ほどじゃなかった!ありがとう、ジロー先輩!」

芥川さんが詩織センパイの頭を撫でたら、詩織センパイはものすごい早口でまた独り言なのか返答なのかわからないことを口走っていた。

「……っ、二人とも、静かに!」

部屋の扉のむこう側から足音が複数聞こえたから、二人に目配せすれば、光の速さで詩織センパイはかけ布団をめくってその下に潜り込んだ。
芥川さんが一緒に潜り込もうとするので、首根っこを掴まえる。
ほんと、ふざけないで欲しい。

武器、といっても何もない。
とりあえず、ベッドの横の引き出しの上にあった煌々と光を放つ燭台を手にする。
その時にわかったことは、燭台といっても、蝋燭に火がついてるんじゃなくて、火に見せた電灯だということだった。
……やっぱり、そういうことだよね。

すべての答えがなんとなくわかったような気がしたが、今はそれよりも扉の前まできた足音の正体を確かめなくては。

ガチャリ、とドアノブが回される。

「……あ!コシマエー!!」
「あ」

緊張感が扉を開けたやつの第一声で見事に崩れた。
馬鹿みたいな大声に、何度越前だっていっても理解しない頭の持ち主。

「おー、越前くんに芥川くんやん!自分らどないしたん?」

「なんじゃ、二人でベッドの上で……まさか、そんな関係なんか?」

「違うに決まってるでしょ」

遠山の後ろには白石さんと仁王さんがいた。
二人の視線にはっきりと否定してから、仁王さんの後ろにいる柳生さんと幸村さんがいることを確認する。

「あっ!!そこにおるん、ねーちゃんやろ?!」

思わず舌打ちしそうになる。
その瞬間に廊下にいて興味なさそうにしていた幸村さんが、慌てたように部屋に入ってきた。

「金ちゃんに見つかっちゃったー」

「夢野さん!良かった、君の悲鳴が何回か聞こえたから……心配していたんだ」

この人ほんと、わかりやすい。
隠すことをわざとしてないんだろうなと思う。
たぶん、それが一番周囲への牽制になることを知っているのだろう。
ほら、幸村さんの後ろで仁王さんと柳生さんが足踏みしてる。

「ほんま、すごい悲鳴が聞こえたで?大丈夫やったん?」

白石さんはその空気に気づいてるのか、気づいてないのかわからないが、普通に詩織センパイに話しかけていた。
が、白石さんを苦手としているのか、詩織センパイの表情が固くなっていく。

「大丈夫、だと信じたいです。色々ありまして……そして悲鳴が響いていたとか、超恥ずかしいんですけども……」

その時視界の端で、仁王さんが眼鏡をかけなおすような素振りを見せたことを見逃さなかった。

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