パンダ迷走曲3
私は柳さんという人をなめていた。

よもや本気でお姫様抱っこするとは。
安易にお願いしますとか言うもんじゃなかった。いやだが、スカートはいてる女子をいとも簡単にお姫様抱っこするものなのか。
最近の男子中学生はどうなっているのだ。
むしろ柳さんの頭の中はどうなっているのだ。

「ふむ、これでスリーサイズの項目などが埋められる」

「なんですと」

「ふっ、冗談だ」

「本当の本当に冗談ですよね?信じてますよ?」

「あぁ。信じていい。しかしこんな人前で口説かれるとは思わなかった」

「柳さん、前頭葉と鼓膜破れてますよ」

そのあともう一度恥ずかしさをごまかすために、顔面を両手で覆って唸った。念仏を唱えた。
木更津さんたちがその度にクスクス笑っていたけど気にしない。
……まぁでも確かにこれで変な罠には引っ掛からないなとはちょっと安心した。柳さんには絶対言わないけども。

それからどういう道を歩いたのかわからないが、乾さん曰く、法則性に則れば新しい道を発見できるらしい。たまに相手の誘導に乗っても見ると笑みを浮かべた乾さんは、この洞窟の仕掛けがすごく楽しいようだった。

「あぁ?なんだ、この大きな扉は」

「ふむ、中間地点といったところか」

広いホールのような開けた洞窟内に出たとき、仁さんが眉根を寄せる。乾さんのいう通り、今までとは違う場所が現れたことに私も少しドキドキした。

岩肌の壁の中心に大きな洋風な重々しい扉がでーんと構えているのである。
ゴールだと思えないのは、この洞窟内の仕掛けを考えた人がこれで終わらせるわけないだろうなと思ったからだった。

「開けるぞ?」

「せーの!」

ジャッカルさんと宍戸さんが扉を押す。
鳳くん、天根くん、佐伯さんも手伝っていたが、その三人が押しても、その扉は非常に重いのか、ゆっくりとギギギと動くだけだった。

扉が半分ぐらいまで開いたときに、中から「あっ!」という声が聞こえてきた。

「ジャッカル!!」

「うお、ブン太?!」

中からも扉を引いてくれたからか、全員無事にその部屋の中に滑り込むことができたが、誰かが手を離すと扉は簡単に閉じられたのだった。

「っていうか、何してんの」

「なんでお姫様抱っこされてるんだよい」

リョーマくんと丸井さんが私を見るなりそう言ってきた。うん、私もいつまでこの状態が続くのだろうかと疑問だったのでいい質問である。
よし、そろそろ下ろしてもらおう。

「……仕方がないな」

柳さんは中にいたメンバーに詰め寄られたので、渋々といった様子で私を下ろしてくれた。ひとまず「ありがとうございました」とお礼だけはきちんとしておく。

それから中にいたメンバーを見渡せば、可愛い子同盟ができるメンバーだった。
リョーマくんに丸井さん、それから「詩織ちゃんだCー!」とさっきまで寝てたらしいジロー先輩。「クソクソ詩織の馬鹿!」と私を罵倒しているのは、ジロー先輩の面倒を見ていたらしい岳人先輩。それから心配そうに私を見ている裕太くんである。

「裕太くん、不二さんも無事だったよ!大丈夫だよ!私、会ったし」

「え!あ、いや、そっか。ありがと……」

「クスクス、裕太が聞きたかったのはそういうことじゃないと思うんだけど」

木更津淳さんにそう言われて首をかしげれば、突然背中をツツーっと背骨に沿って何かが這うような感触がしてびっくりする。
思わず「んぎゃーっ!」って叫んで振り返ったら、リョーマくんだった。

「色気のない声だよね」

「リョーマくんは将来ハゲればいいと思うよ!」

さっきのゾワゾワの犯人は、リョーマくんの人差し指か!と睨んでみたが、リョーマくんは不敵な笑みを浮かべて余裕綽々だったので効果はなかったようだ。

「越前もあんまからかってやるなよ。夢野、大丈夫か?」

裕太くんのいう大丈夫かはどのあたりを指すのだろうかと思い、今まであったことを全部話す。宍戸先輩たちには二回目となるが、それでも真面目に聞いてくれた。

「……んで、この部屋は行き止まりなのか?もしそうなら、んなとこ早く出るぞ」

あの重々しい扉の中は洋館の一室で書斎のようだったが、見回した限りその扉以外の扉が見当たらない。だから仁さんがイライラしているのはわかった。

「いや風の流れがある」
「あぁ、これはどこかに隠し扉があるな」

乾さんと柳さんはノートをぱたんっと閉じると、部屋の壁沿いに歩いていく。
というか、あの二人は本当に何者なんだろうか。めっちゃ便りになるじゃないか。データマン凄すぎる。

「隠し扉というと、やはりこの本棚とかですかね?」

「長太郎、あんま色々触るなよ。夢野の話聞く限り、隠し扉の前に別の仕掛け起動するかもしれねぇ。んなことなったら激ダサだぜ」

相変わらず宍戸先輩と鳳くんは仲がいいと思う。

ひとまず、ジロー先輩がゴロゴロしているソファに腰かけた。壁にトラウマできるぐらいなので、絶対に部屋の壁を調べたりしない。調べたりするもんか。

「詩織ちゃん、俺が守ってあげるから大丈夫だCー」

むにゃむにゃ言いながら、私の太ももを枕にし始めたジロー先輩は憎たらしいほどに可愛かった。

「えー、いいなぁ。羨ましい」

そう爽やかに笑った佐伯さんは、きっと彼が頼めばほとんどの女性が膝枕してくれると思うので羨ましがらなくても大丈夫だと思われる。

「よっと」

「リョーマくんは隠し扉探さないの?」

「ちょっと休憩」

それから既にジロー先輩と私で幅をとっているソファの端の隙間に座ったリョーマくんに驚いた。
あまりの近さに心臓が跳び跳ねる。ジロー先輩はもうこの距離感に慣れたが、リョーマくんとのこの距離は慣れていない。無駄に焦る。

そんなときだった。
本棚のひとつを調べていた岳人先輩が跳び跳ねたのは。

「おいこれ!ほら動いた!!見てみそ!」

「すげーじゃん!テンション上がってきた」

丸井さんが興奮した声を出したのと、本棚が大きな音をたてて動いたのはほぼ同時だった。
本棚の後ろには階段状になっている通路が見える。
ジャッカルさんが懐中電灯で照らしてみたが、だいぶ先まで続いているようだった。

「ふむ、意外と早くゴールかもしれないな」

柳さんが乾さんと顔を見合わせた時だった。

「?!」

私とリョーマくん、ジロー先輩の座っているソファがガタンッと音をたてたのは。

「っ、夢野!」

裕太くんが私たち三人に手を伸ばしてくれたけど、遅かった。

「なんでソファが動くのぉおっ」

ジェットコースターがレールの上を走っているのと同じ原理で、私たちはまた強制的に移動させられたのだった。

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