また行き止まりか。
やっぱ、んなとこ付いてくるんじゃなかったぜ。
何度目かの後悔を考えてたとき、地鳴りのような低い音が不規則的に聞こえてくることに気づいた。そしてそれが聞こえた後、必ず新しい道が出来てたり行き止まりが作られてるっつーことも。
「淳、この壁、他とは違うかな」
「ん、亮。確かに違うな」
壇や河村と離れちまった後、何故か双子と行動を共にしていた。あと、氷帝の二人。
「宍戸さん!木更津さんたちの言う通り、色も手触りも違いますね」
「だな。この感じ、中は空洞になってんのかも……」
あぁ、そうだ。
宍戸と鳳とかいうやつだ。で、双子は木更津か。
けっと舌打ちしつつ、四人が話していた壁を睨む。
この四人からは離れて一人行動したい衝動には駆られているが、俺はロウソクなどの灯りを持ってねぇ。だから仕方なく一緒だった。
つか、他のやつらも見かけねぇし。
「……、……っ」
「し、宍戸さん、今の聞こえました?!」
壁の向こう側が空洞だっていうなら、壊すか。いややっぱ面倒だな。など色々考えてたら、鳳が宍戸の肩をがくんがくんと揺らした。
……もうちょい力加減してやれよ、と思ったことは口には出さない。
「夢野さんの声に聞こえませんでしたか?!この向こう側から、ほら!」
耳がいいんです、だから間違いありません!と続けた鳳があまりにも必死だったので、俺は息を吸い、腹に力を込める。
吸ったそれを吐き出すのと同時に脚をあげた。
「うらぁっ!!」
他愛ねえな。
蹴りの一撃でガラガラと崩れた壁に鼻で笑う。
四人が話していた通り、中は空洞のようだった。
木更津双子が灯りをそこへ差し込めば、狭い空間に誰かが座り込んでいるのが見えた。
「あ?」
そいつと目があった瞬間、勢いよく飛び付かれた。
だが軽すぎてたいした衝撃はない。
「仁さんーっ!!」
「ばっ、てめ、離れろ!チビ女っ」
「いーやーだー、お代官様ぁぁあ」
「わけわかんねぇよ!ぶん殴んぞ!」
俺の体を必死に抱き締める夢野を離そうとデコの辺りをぐぐっと掌で押し退ける。
それでも負けじとしがみつくチビに焦った。
「夢野さん!」
「は!鳳くん!!会いたかった!宍戸さんも、木更津さんたちも!!」
だが次の瞬間、鳳を見たらばっと離れてやつの手を握りやがった。
それが異様にイラついた。
何故かなんてわかんねぇ。
ただ、あんなに必死に俺にすがり付いていたくせに、ころっと鳳に靡いたのがムカついたのかも知れねぇ。
「つかお前、灯りもなしに一人でいたのかよ」
「色々あったんですよ!かくかくしかじかで!!」
「おい、かくかくしかじかで!で、すませんな。ちゃんと説明しろ」
宍戸にデコピンされた夢野は、嬉しそうにニヤけていた。
それも面白くねぇ。
なにヘラヘラ笑ってやがる。
この合宿の始り、あの船の上にいた時から、野郎にヘラヘラ媚売りやがって。
「……もしかして泣いてた?」
「ここ濡れてる」
双子が夢野の頬をを左右それぞれが指で涙の跡らしきものを拭ってみせる。
その双子に挟まれて「おうふっ?!」と真っ赤になって奇声を発した夢野にまたいらっとした。
「てめぇ、っ」
「仁さん、河村さんが心配してましたよ!」
イライラするから夢野の頭を鷲掴みにしようとしたら、突然振り向かれて焦る。
しかも河村の馬鹿に心配されたからってなんなんだ。別にどうでもいいんだよっ、んなことは!
「おぉ、仁さんが嬉しそう」
「だ、誰が嬉しそうだ!ボケがっ!!」
「顔真っ赤にして罵倒されても怖くないですよー」
「いい度胸だな、あぁ?!」
そう怒鳴ったときにはもう夢野は宍戸と鳳を盾にするように二人の後ろに隠れていた。
それもまたムカついたので、舌打ちしてから、崩れた壁の瓦礫を蹴ったのだった。
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