パンダ迷走曲2
「あ、あれは、本物とかじゃないですよね?よもや本物のゾンビなんていませんよね?!っていうか、滝先輩は?!え、あれ、もしかしてゾンビに?!」

ハァハァと息を切らしながら、両隣を走る忍足先輩と謙也さんに尋ねる。

後ろから「南無阿彌陀仏!いっちゃん、首藤さん、バネさんごめんーっ」と泣きながら葵くんが走ってついてきていた。
後ろをチラリとみたら、バネさんがゾンビに捕まった二人を助けに向かっていた。そんなバネさんに先に行けと大声を出されたのだろう。葵くんは必死だった。
もう既に橘さんと千歳さんの姿は見えない。もちろんさっきから姿が見えなくなった滝先輩もいない。
わらわらと何人いるんだ!と叫びたいぐらいのゾンビだけが見える。

「わからん、わからんけど、本物やってたまるかっちゅー話やで!」

「本物ちゃう。顔は特殊メイクしとったけど、手とか普通やったし。動きかたも捕まえとるだけみたいやし。滝は橘くんと千歳くんがおったときには後ろにいたはずやけど……」

謙也さんの台詞に忍足先輩が冷静に答える。
あぁあよく見てる忍足先輩超カッコいい。

「今の忍足先輩素敵です!ときめく!!」
「ほ、ほんまか?!」
「今の顔で減点!残念!」
「詩織ちゃんに弄ばれとる!でもなんでか胸ときめくわ!」
「ひぃ、私のときめき返してください!」

よしそんな軽口言えるぐらいちょっと気持ちに余裕出てきた!と思ったけども、やっぱりあのゾンビの格好した人たちには捕まりたくないなと思った。ていうか、一人蔦を巻き付けてる変に凝ったゾンビがいた。怖い。

「つか、いつまで追いかけてくんの」
「やばい、脚つったかもっ」
「も、森、頑張れ!あそこに梯子がある!」

私と葵くんの後ろを走っている内村くん、森くん、桜井くんがそう口にしてて、謙也さんの方を向いたら、確かに梯子が岩の壁に立て掛けられていた。

もう私は足が限界だったので、本当に助かった。
こんな私にスピードを合わせてくれたであろう皆にも感謝だ。

「さ、詩織ちゃん、先に登り?」
「え、私、最後でいいです」

忍足先輩の真面目な顔をみて、絶対この人だけはわかっていっているなと思った。
何故なら私はスカートだからだ。

「上に比嘉中がおるでー!」

安全を確かめるために先に登った謙也さんの声がそういった。
比嘉の人たち、無事で良かったとは思いつつ、目の前の忍足先輩をチラリともう一度見る。

「さ、はよしな。ゾンビくんで?」

「くっ、う、上見ないでくださいね」

「ふっ、わかっとるよ」

絶対嘘だ。
そう思ったけど、急がないとゾンビたちが来そうだったので忍足先輩の良心を信じて梯子を登ったのだった。そして全員が上りきった後、梯子は上に引っ張っる。それからやっぱりニヤニヤしている忍足先輩の顔を見て激しく後悔したのだった。




「……で。そんなことが貴女の身の回りだけで起きているんですね?」

「え、木手さんたちは何もなかったんですか?!」

一呼吸ついてから、上の階(?)にいた木手さんたちに今までのことを話すと、何故か皆さんにきょとんとした顔をされた。

「何もなかったって言われても、まぁ何か仕掛けが動く音だけは聞こえてたさー」

甲斐さんが肩を竦める。
だとしたらひどい。
私だけなんでこんなに怖い目にあってんの。

「よしよし、ほらもう大丈夫さー」

うーっと唸っていたら、頭を優しくナデナデされた。顔をあげればやっぱり新垣くんである。私をペットか何かだと思っている新垣くんである。

「いやだから、そんなこと思ってないさー」

「っ、じゃあなんなん?」

吃驚した。
謙也さんが新垣くんの手を私の頭から払ったからだ。
その瞬間に謙也さんと二人で歩いていたときに言われた台詞を思い出す。少し恥ずかしくなったが、謙也さんは思春期的なあれで、きっと仕掛けに対しての高揚感を勘違いしただけなのだ。
そのはず、だと、思う。

「まぁ新垣もベタベタ触り過ぎさー。こんななちぶさーないなぐ触らん方がいいさー」

平古場さんは相変わらず辛辣だった。
でも変な空気を連れ去ってくれたみたいなので、感謝する。

「それで、これからどうするつもりですか?」

「んー、特には考えとらんかったからなぁ。跡部たちを探すぐらいしかでけへんし」

「まぁそれが正解でしょうね。我々も協力しますよ。仕方ありませんからね」

ちょうど田仁志さんが腹をならして、知念さんと不知火さんが田仁志さんに、ずっと持っていたのかバナナをあげていた頃だ。

木手さんが協力しますよと言ってくださったのは。
あまりのあれに幻聴かと思ったし、ドッキリかと思った。

「やっぱり失礼ですね、貴女は」

「えへへ、すみません」

木手さんにため息をつかれてので、笑って誤魔化して冷たい岩肌に身を任せた。
その場に色々な人がいたから、気が抜けてしまったのかもしれない。
そして忘れていたのだ。
この洞窟が私に対して優しくないことを。

「まぁ予想ですが、それは全部夢野クンを狙ったものでしょうね」

眼鏡をくいっと押し上げた木手さんは悪者っぽい。
だけど、その木手さんの姿を見ていたら、もたれ掛かっていた壁がぐるんっと回転した。
そして私を暗闇に放り出して、回転扉のようになっていた壁はもとの場所に戻る。

「う、嘘……」

そんな馬鹿な。
また暗闇の中閉じ込められた。
手探りで壁の感触を確かめる。
壁の向こう側で忍足先輩や謙也さんの私を呼ぶ声が聞こえる。あぁ、あの泣きそうな声は葵くんかな。
もとに戻るために、どこか動かせそうかと思ったが、ゆっくり自分の足元が移動していることに気づいた。これはもしかしたら、運ばれているんではないだろうか。
このまま、まっ暗闇の中ただ座っているだけなんてこともあるかもしれない。そして気付いたときには私を捕まえようとした人と対面するのでは。

そんな弱気になっていた私を救いだしたのは「うらぁっ!!」と柄の悪い掛け声だった。
バラバラと粉砕された壁に瞠目する。
その隙間から光が溢れていた。

「あ?」

目があった瞬間、思わず仁さんに抱きついてしまっていたのだった。

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