もう洞窟ん中ばさ迷うはいい加減飽いた。やけん入り口に戻ろうとしたけども、おかしか。
まったく戻れん。
俺は方向音痴やなかったはずなんに。
さ迷ってたら、いつの間にか六角中の葵と首藤、樹、黒羽と一緒に行動することになっていた。
そんなか、暫くして桔平ば発見した。
よくよく見ると夢野さんもおる。
「俺もおるっちゅー話や!」
わかっとったばい。
謙也に叩かれた背中が痛か。
あ、でも謙也だけなのは不思議やった。
金ちゃんたちはどこいったんやろうか。
あぁ、それよりも。
「出口がなかと。こん洞窟おかしかばい」
「あぁ。わかっている」
「地面も壁もめっちゃ動くんですよ!それと私捕まりかけたんです!ここめっちゃくちゃ恐いです!!」
桔平に尋ねたら、夢野さんが興奮ぎみに腕を上下に動かしながら、そう訴えてきた。
「って、捕まりかけたって、だ、大丈夫でしたか?!」
葵がぎゅっと夢野さんの手ば両手で包み込むように握る。
「手を噛んで頭突きして逃げたよ!」
「お前、案外そう言うときすげえよな」
「尊敬するのねー!」
首藤と樹も声ばあげて感心しとった。
「シータみたいばい!」
「千歳さん、相変わらずそういうとこ怖い!」
俺もそん時のことば想像して、映画のワンシーンば思い出したら、夢野さんに微妙な顔をされる。
そぎゃんこつなかと自然な動きになるようにして、ずっと手ば握っていた葵ばひっぺがした。
「……夢野、ダビデたちを見てないか?」
「い、いえ。六角の皆さんと洞窟で再会できたの、これがはじめてです。氷帝も忍足先輩と滝先輩にしか会えてないし……うー、若くんと鳳くんに会いたいー」
「詩織ちゃん、他の男に会いたいやなんて言わんといて」
「うー、忍足先輩以外に会いたいー」
「なんでやねん!ほんまいい加減にしな泣くで」
「あははー、泣きなよー。写真撮りたい」
「滝、煩い。今なら日吉の気持ちがわかるわ」
黒羽は特にダブルスパートナーの天根ば心配しているようだった。
まぁこん合宿でみただけでも、六角中は仲間意識がたいぎゃ強そうやったし。
「なぁ、これ……なんの音だ?」
「音っていうか、唸り声?」
不動峰の桜井と内村がそう言った時には、それは俺たちの前にやってきとったばい。
「っ、なっ、なんですか?!え、ゾンビ?!あの土色とか乱れた衣服とか、海外ドラマに出てくる感じ!う、嘘だよね、嘘だ!」
相変わらず夢野さんは独り言が大きい。でもむぞらしか。そぎゃんところが見とって飽きんと思う。
「に、逃げた方がいいんじゃないか?」
「そう言って首藤はいつも転けたりするのねー」
「あぁ。一番最初にやられるタイプだから気を付けろ」
「バネさんの言う通りですよ、首藤さん!」
「お、お前らひでぇな?!」
六角のそんな漫才を聞きつつ、俺たちの前に出た桔平に声ばかける。
「何しよる?早う逃げんばいかん」
「先に行け!ここは俺がなんとかする!」
なんとかするって、何ば言いよるんか。
「夢野さん、こっちや!」
「ほら、詩織ちゃん!!」
「え、でも、橘さんが!!」
夢野さんのことは、残念やが謙也と謙也の従兄弟に任せることにした。
「桔平、一緒に付き合うばい」
「お前も馬鹿だな。貧乏くじだぞ」
不動峰の三人ば桔平に最後まで声をかけていたが、桔平の大声に渋々逃げていく。
「決めたばい。再会したとき、今度こそ夢野さんに抱擁してもらうたい」
「ばっ?!千歳、お前何ば」
「そろそろ見とるだけも飽いたけんね」
「……そう、だな」
返答に大笑いしてしもうたら、目ん前のゾンビの動きが一瞬乱れた気がした。
いや気のせいやなか。
そろそろ種明かしばしてもらおうか。
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