罠と思惑と4
「とりあえず、謙也さんが懐中電灯持っていてくださって本当に助かりました。暗闇怖いダメ絶対」

俺の隣をピッタリくっついて歩いている夢野さんにだいぶ心臓がやられとる。
しかもこの状態で二人っきり。
灯りがなければ真っ暗闇のこの洞窟内で二人っきりなのだ。
暗闇のせいやろうか、何故か俺の意識は完全に夢野さんがくっついている左腕に持ってかれとった。
特に柔らかい感触がさっきからする左肘一点集中や!

「あ、あんな、夢野さんっ」

「はっ!すみません!!私がしがみついたら歩きづらいですよね!が、今はどうか!ひらに、ひらにご容赦を!」

さっき聞いた話によると、夢野さんは暗闇で何者かに拉致られそうになったらしい。
そのせいでいろいろテンパっとるんか、さっき真田くんたちと離れ離れになってしまったせいかわからんけど、言動がいつもの五割増しでおかしかった。

「……や、やっぱり迷惑だよね。うん。私も確かにこれはダメな気がするし」

ぼそぼそと呟いた夢野さんは、しがみつくのを止めて俺のシャツの裾を遠慮がちに指で摘まんだ。

「え、何しとるん?」
「へ?!あ、いや、すみません、私なんかがくっついては嫌だろうと思い、ですが、また独りになったらと思うと怖くて。なので、これだけでも勘弁してくださいー」

壁も地面も信用ならないんですよ!と涙目で訴えてくる夢野さんに背筋がぞくぞくする。
あかん、可愛すぎるやろ。
どないしろっちゅー話やで。
遠慮がちにきゅっと掴まれてる裾のことも、独りが怖いと涙目になってる姿もほんまに反則や。

ピッタリくっつかれたときは嬉しさはあったんやけど、やけどもしかして俺のこと男や思ってないんちゃうかなと思っとった。
やけど、この頬を赤らめてもごもご口ごもってる様子からそんなことはなかったんやと安堵する。

「自分ほんま……、あかん、息苦しい」
「え?!」
「どないしよ、ほんまどないしよ……」
「ど、どど、どうしたんですか?!酸欠ですか?!それとも──」

はぁぁっと息を吐き出して壁にもたれ掛かった俺を心配して夢野さんが慌てている。

落とし穴に落ちた切原くんが言うてたけど、変な気起こるわ普通にこれ。
いまだにまともに夢野さんの顔を見られへん俺やけども、この二人っきりの状況は神さんがくれたチャンスかもしれへん。

「あ、あのな、夢野さん。自分見とると、こう胸がドキドキして苦しくなって……その」

「……はい」

「好き、に、なってもうたんやけど……」

あの、軽井沢の合宿所で一目見たときからずっと。と続けようとしたら、大きな目をパチパチさせていた夢野さんがへにゃりと笑った。

「謙也さん、それあれですよ、つり橋効果ですね。さっきの落とし穴とか怖かったですもん。ね?」

言葉が出てこんかった。
ちゃうねん、今ドキドキし始めたんじゃなくて、前の合宿の出会いからずっと自分を見とったらやから。お、俺、すごいわかりやすいとか馬鹿に何度もされてんのやけどっ!

「くっ、ぷくくっ……」

必死に反論したかったんやけど、それができひんかったんは複数の足音が近づいてきたからやった。そしてその内のひとつが、肩を小刻みに震わして俺を笑っとったからや。

「忍足先輩!!」

ランタンを持っている侑士の周囲が暖かな光を放っているからか、夢野さんはすごく嬉しそうな表情やった。
そしてその後ろにいる滝くんと、不動峰の橘くん、桜井くん、内村くん、森くんというメンバーを見て、俺のシャツの裾から手を離して駆けていく。

なんや胸がすんごいズキズキした。
あかん、はじめっから思っとったけど、俺、だいぶ重症やわ。

「つり橋効果やったら、詩織ちゃんも俺のこと好きになってくれるんやろか」
「つり橋効果って男同士でも効果あるみたいですよ、今思い付いた嘘だけど」
「嘘なんかい」

ぴしっと侑士が夢野さんの肩に軽いつっこみをいれる。それに対して小さく笑った夢野さんは、さっきまでの恐怖心を薄らげているようやった。
それほどまでに侑士とおると安心なんか。
実は信頼しとるんやろうか。

悔しいやら情けないやらで一人悶々していると、滝くんが俺に耳打ちしてくる。

「くす、……騙されたと思って夢野さんの手を掴んでみたら?」

なんで滝くんにそないなこといわれなあかんねんやろうと思うたけども、騙された思うて夢野さんの手を握る。

「夢野さんっ」

ちょっと、いやだいぶ震えてもうたけども。

「ひゃっう?!け、謙也さ、ん、な、何でしょう?!」

振り向いた夢野さんの顔がもう真っ赤やった。泣きそうな顔で俺を見つめるその瞳にまたぞくぞくと電気のようなものが背中を走る。

これは……もしかしなくても、めちゃくちゃ意識されとるんやないやろうか。
さっきの流された告白も、実はすごく効いとるような気がした。

「はいはい、とりあえず先に進みましょう」
「夢野、深司たち見てない?」

侑士がものすごく嫌そうな顔をしてるのを見て、滝くんに感謝した瞬間、俺の手と繋がっていた夢野さんの手は内村くんにばっさり切られた。
桜井くんが夢野さんに尋ねたため、夢野さんの意識も完全に俺から離れて。

なんや森くんがニヤニヤして笑いを堪えていたのと、後ろで滝くんが楽しそうに声をあげたことがすごいおもろなかった。

「……まぁ、ドンマイ、だな」

それから最後に橘くんが真面目な顔で俺と侑士のそれぞれの肩に手をおいてそう言ったのだった。


「え、いや俺なんもしとらへんで?謙也だけやろ、ダメージあんの」
「うるさい、絶対自分はランタンパワーやんけ!」
「ら、ランタンなくても、詩織ちゃんいつも侑士センパイ(はぁと)言うて駆けてきてくれるんやで」
「それ妄想やろ!聞いたことないわ、ドアホっ」

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