パンダ迷走曲1
一体何がどうなっているんだろうか。
いや本当によくわからない。
壇くんと洞窟の入り口から少し歩いたところにいたのに。
洞窟に入る前は若くんといたはずだが、私が洞窟の雰囲気に呑まれて色々喋ってる内に氷帝の皆は先に行ってしまってた。
跡部様と樺地くんのこともあるし、どうせ後ですぐ追いかけてくるだろうと思われていたに違いない。
むしろ私もすぐに追い付くつもりだった。
だけど、まさかこの洞窟内がこんな仕掛けだらけの迷宮だと誰が思おうか。いや思うまい。ほんとなにここ、からくり屋敷なんだろうか。

壇くんたちとはぐれてしまって、四方八方壁で囲まれた時は泣きたくなった。手探りで壁に囲まれているのは理解したが、真っ暗闇だったからだ。
たまたま壁の向こうの通路を一氏さんたちが通って、私に気づいてくれた。すごく安堵したのもつかの間、今度は私の足元の地面が滑り台のように傾斜し、抵抗むなしく私は下に滑り落ちた。

「おかげでお尻打ったでござるよ、痛いでござるよ」

大石さんから受け取ったマッチの箱を握りしめながら、ござる喋りでなんとか自分を落ち着かせようとする。
でも空しいだけで、何もならなかった。

しゅっ、と視界の闇をなんとかしようとマッチを一本箱から出して灯をともす。
その瞬間ほんのりと明るくなって、前方に道があるのがわかった。
でも少し行ったところで左右に別れている。

「あっつ!」

慌ててマッチの火を消す。
黒こげになった一本を捨て、それから再び違うマッチを取り出そうとした。
が、できなかったのである。

「ん、んぐう?!」

いきなり後ろから羽交い締めにされ、口許を手袋をつけた手で塞がれる。

「掴まえた。暴れるなよ」

耳元に聞こえた囁くような男性の声に背筋が凍りつく。

ま、まさか、白石さんの発言が正解だったのだろうか!跡部様たちは囚えられてるのだろうか?!
そして私も捕まっちゃったのだろうか?!
いや、捕まっちゃダメだ!

「ふんぼんばーっ!!」

自分でも何て言ったのかわからなかった。
だけどとりあえず必死で、手袋の上から思いっきり手を噛んでやった。それから叫んで頭突きして。

その人が連れていこうとした右の道とは反対の左の道へダッシュした。
走りながら急いでマッチを着火する。
慌てたせいで二、三本落としてしまった。
でも振り返らない。
さっきの人が追いかけてきてるはずだ。早く逃げないと!

その時、牢の鉄格子のような形に崩れた壁があって、そこから懐中電灯と蝋燭の光が見えて心の底から嬉しかった。

「切原くんっ!!桃ちゃんっ!!」

二人の顔を見て安堵したためか、やっぱりさっきのがすごく恐怖体験だったからか、よくわからないけど、涙が出そうになった。

吃驚した顔をしている二人の後ろには、またそれ以上に吃驚している真田さんと不二さん、河村さん、それから赤澤アニキと金田くんがいた。

「あ、アンタ、なんでそんなことこにっ」
「夢野?どうした?なんでそんな顔して──」
「助けて!さっき変な人に捕まりそうになってっ……心の臓器がお口から飛び出ちゃうよぉお」
「──落ち着け!」

桃ちゃんの大きな手がぽんっと私の頭を撫でた。それだけで少し息をつけた。

「さっきから道がおかしいと思ってたんだけど」
「はは……っ、やっぱりさっきから聞こえる地鳴りのような機械音は、洞窟の中が変化している音だったみたいだね」

不二さんの表情が険しくなり、河村さんも洞窟の仕掛けに気づき始めているようだった。

「夢野さん、これハンカチ。拭いて、ね?」
「俺たちがいる。安心しろ」

安堵したときに涙がやっぱり零れてしまっていたのか、金田くんが優しく微笑みながらハンカチを手渡してくれた。
赤澤アニキの力強い言葉は妙に安心する。
うぅ、混乱してしまって本当に情けない。

「あぁ、でもどうしましょう。皆さんのところに行きたいんです。でも、どうしたら……」

「あ。そうだよな、こんな隙間じゃ通れねぇよな……」

切原くんが岩でできた壁を一度軽く叩いた。
本当に鉄格子のような岩の隙間で、私の体は腕ぐらいまでしか通らない。
この隙間はこの部分にしかないので、他の道を探すことになったとしたら、また皆と別れなければならないし、そして無事に合流できるとは思えなかった。
それにまた暗闇に戻ったら……
考えるだけでゾッとする。

がくがくとまた震えてきた。
洞窟に入る前はのんびり考えてて。
まさかこんなことになるなんて思っても見なかった。

「夢野さん、大丈夫だよ」
「うん、少しこの先を確認して──」

不二さんと河村さんの優しさが胸に染みると思っていたら、ずっと黙っていた真田さんが私の目の前にある鉄格子のような形になっている岩の部分を掴んだ。

「……っ、このっ、壊れんかぁあぁっ!!」

バギャーンッとあり得ないことが起こった。
地響きが起こるんじゃないかと思うぐらいの真田さんの咆哮。
ビキビキと真田さんの拳に血管が浮き上がって、筋肉が締まる音が聞こえた。
そしてさっきのあれである。
ボロボロと崩れた岩の破片。
頬に幾つか当たったけど、痛いとかそれ以前に呆気に取られた。

「ふ、副部長、す、すげぇーっ?!」

切原くんが目を見開きながら、後退る。
う、うん。
そうだよね。すごいと思いつつ引いちゃうよね。
私も壁を壊してもらって助かったし、本当にすごいと感謝なのですが、正直真田さんは本当に中学生なのだろうかとか、どれぐらいの握力で岩を粉砕できるのだろうかとか。もう頭の中の処理ができないでいる。

「い、今のうちに……」

河村さんの言葉に私はハッとして顔をあげる。

それから手を差し伸べてくれた桃ちゃんの手を掴んで真田さんたちのいる通路に出たのだった。

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