「パンダ魔神とか出てきそうだよねっ?!」
「え?」
「ん?」
壇くんが洞窟を見上げて緊張したように言ったら、ぐっと握り拳を振り上げながら詩織ちゃんが何か言ってた。
二人してきょとんと顔を見合わせている。
そんな様子に吹き出してから、ゆっくりと先頭集団に続いて足を踏み入れた。後ろから地味'sがついてきていて、その後ろにルドルフの観月くん、野村くん、柳沢くんがついてきていた。亜久津は確か青学の河村くんとさっき一緒にいたから前の方かなと視線を向ける。たしか、室町くんも伊武くんと財前くんと一緒で、その三人も少し前にいたはずだ。
「ん?!」
吃驚した。
ガタンっと何かが弾けるような音がして、洞窟の入り口がゆっくり動き始めたのだから。
「ちょ、詩織ちゃん!壇くん!」
「千石さん!南さん、東方さん!」
俺と同じように異変に気づいた地味'sの二人も動けず固まっている二人に手を伸ばした。
「よ、よし、掴まえた!」
南がそう言って、ぐっと引き寄せる。
その間にも、壇くんと詩織ちゃんの立っている地面は洞窟の左手の壁に押し込まれていた。いや、押し込まれるというか、移動してるというか。
「ダダダーン!び、吃驚したですー!あれ、夢野さんは……?」
南が引き寄せたのは壇くんで、俺の指先が擦ったのが詩織ちゃんか!とはっとしたときには遅かった。
「んふっ、大掛かりな仕掛けですねぇ」
「うわぁ、これ弟くんに知らせなきゃいけないんじゃ」
「……無理だーね。ほら、このメンバーしかもういないだーね」
観月くんたちの台詞に振りかえったら、前を歩いていた他のみんなの姿は消えていた。
さっきの仕掛けで洞窟の壁が移動したのだ。つまり今見えている洞窟の奥への道はさっきまでみんなが歩いていた道とは違うということだった。
「……おいおい、こりゃあどういうことだ?」
「ん、南、もしかしたら俺たちが全員を救出するんじゃ」
「主役みたいだな!」
瞳をキラキラし始めた地味'sを放置して、俺は壁を殴る。
壇くんがそんな俺にびくっと体を硬直させていた。
うん、俺らしくない。
壇くんにはびっくりさせて申し訳なかった。
だけど、掠めた指先の感触が悔しかったんだ。
「詩織ちゃん、ごめん……っ」
俺が掴んでいれば、今彼女はここで笑っていられたのに。
メンゴ、といつものように軽く笑えない。
女の子を一人にしてしまったということもあって、辛い。
この仕掛けを考えたやつ、本当に最悪だ。
「……いやでも、あれ?」
もしかして初めから、この仕掛けは詩織ちゃんを狙って発動したのでは?
「千石くん、進まないんですか?」
んふっと不敵な笑みを浮かべた観月くんは、俺と同じことを考えていたようだった。
前髪を少しいじりながら「彼女を狙ったこのシナリオ、僕がぶち壊して見せましょう」と呟く。
もし詩織ちゃんを狙ったものだったとして、一体何のために?
次々と浮かぶ疑問にふぅっと息を吐く。
いまはただ、この真っ直ぐの道がラッキーでありますように。
そう願った。
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