もう止められない
いやあ河村さんがいなかったら、本当に死んでたんじゃないかなと思う。
ちょっと……いや多少、人工呼吸の話題で恥ずかしいが、河村さんだったので心の底から感謝しかない。これが忍足先輩や白石さんがえくすたしらいしーさんになってたり、佐伯さんだったりしたら、真剣に人工呼吸が必要だったのか検証しなきゃ気がすまなかったかもしれない。
……なんて、そんなときは本当にさっきみたいに必要な時だろうなとぼんやりと思う。だって、本当はそのお三方も合わせて皆さんとっても素敵な人たちだからだ。多少強引なところやちょっと色気が醸し出されていたとしても、私が本当に嫌なことは絶対にされたことがない。

「あ、えくすたしーは勘弁ですよ」

「そやな。絶頂ってなんやねんって話やな」

一人で考え事をしているつもりだったのに、突然光くんに相槌をうたれてびっくりした。
開いた口がふさがらない。
光くんは一体いつからそこにいたのだ。

「最初からやな。俺も河村さんやなかったら、荒れるところや」
「え、光くん今も不良っぽいよ?」
「はは、よー伸びるわーほんまー」

痛い。
光くんはすごく良い笑顔で私の頬をみょーんと左右に引っ張る。
私の何がかんにさわったのだろうか。あ、もしかしてイライラずっと引きずってるのかな。

「や、やめてやれよ。赤くなるだろ」

裕太くんは天使だと思う。
光くんの手を離すよう促してくれた裕太くんの背中に隠れてちらりと光くんを見ると、見たことを後悔するような目付きの光くんがいて、本当に泣きたくなった。どうしよう。光くんが何故かめっちゃ怒ってる。怖い。

「ちょうどよかったわ。自分に言いたいことあったし。詩織に近づくなや、意味不明すぎてイライラすんねん」
「は?い、意味わからないのは俺の方なんだけど……」

ごもっともである。光くんがいくら私にイライラしているからって裕太くんにあたるのはよくないと思うんだ。

「……まだまだだね、あんた。余裕なさすぎ」
「は?」

どうやって注意をそらそうとか考えていたら、人を煽るのうますぎるよねと思っているリョーマくんだった。ダメだ。光くんすごくイライラしているのに、リョーマくんではただの火種である。

「夢野、お前何してるんだ?」

そして若くんもダメだ。
勘違いで光くんを殴った若くんの背中を思い出して頭を抱えた。若くんがそんな私に眉間にシワを寄せる。

「ふしゅうぅ、なんか困ってんのか?あんた」

「ていうか……財前はさ、詩織を独り占めしたいだけだろ。それでうまくいかなくてイライラして……カッコ悪いよね。あーぁ……冷静に自分を客観視できないとか可哀相だな」

ただ心配してくれているだけのはずなのに顔が怖い薫ちゃんとリョーマくんの次に人を煽る深司くんの姿に胃が痛くなる。
この空気を中和できる人が欲しいと願ったら「た、大変だよ!」と走ってやってきたのは鳳くんだった。

「今、比嘉の知念さんと六角の首藤さんが跡部さんと樺地と手塚さんを見たらしいんだけど、この先の洞窟に隠れるように入っていったって……!」

その瞬間に周囲がざわっとどよめいた。

「手塚……やっぱり何か隠してたんだね」

「けっ、大体この合宿自体がおかしいんだよ!」

不二さんがぼそりと呟いたと同時に仁さんが怒鳴る。壇くんが必死にどこかへ行こうとする仁さんを止めていた。

「クソクソ、やっぱり樺地も跡部から何か聞かされてたってことだな!」

「真田、俺は追いかけた方がいいと思うんだけど。どうかな?」

「うむ、このままというわけにはいかん」

岳人先輩が地団駄を踏んだ時、幸村さんが顔をあげた。真田さんも幸村さんに賛成のようだ。

「いっときますが、我々も行きますからね」

「ふぅ。……俺たちも真相を突き止めたい」

木手さんが眼鏡をくいっと押し上げて、橘さんが焚き火の前から腰をあげられた。同時に神尾くんと桜井くんも立ち上がる。

「……ふむ、さっきの恐竜も偽物だった確立85パーセント」

「俺もそう思う。さっきまで出ていた霧もその洞窟の存在を知られない為ではないだろうか」

「んふふ、この僕をシナリオ通り踊らせようなんて甘いんですよ!さぁいきましょう」

乾さんと柳さんがにやりと口許に笑みを浮かべて、観月さんは何故かこの状況を楽しんでいるようだった。

「まぁまぁ、あの跡部くんだと本物の恐竜を孵化させて飼ってましたって言われても納得できちゃうから、みんな十分に気を付けなきゃだよー」

たしかに千石さんのいう通りかもしれない。

「……それに、もしかしたら三人はたまたま洞窟見つけて中を確認しにいっただけかもしれへん。んで、中に悪くて怖いおじさんらがおって捕まってるっちゅー可能性もあるやろうし」
「逆にそっちの方がやばいやんけ!」

白石さんの真剣な台詞に金ちゃんがそわそわしはじめて謙也さんとスパイ映画みたいやな!と興奮を始めたら、一氏さんが白石さんにツッコミをいれていた。
でももし白石さんのいう通りだったとしたら、跡部様と樺地くんと手塚さんの身が心配すぎる。

どちらにしろ、洞窟に行くのはもう止められそうにない。
もちろん私も止めるつもりはない。

洞窟がどこに続いているのかもわからなかったけど、不安はなかった。
みんなが一緒だからか、なぜかドキドキの方が強くて、ぎゅっと拳を握りしめたのだった。

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