むしろそういう場面で的確に心臓マッサージと人工呼吸を行えるなんて、タカさんすげぇと思った。俺だったらもっとあたふたしていたことだろう。
「で、夢野は本当に大丈夫か?」
「う、うん。頭くらくらするとかそんなことはないよ。動けるし、たぶん、大丈夫」
それから一度くしゅんとくしゃみをする。
「でも、ちょっと寒いかも。全身びしょ濡れだから。あ、河村さんも……っ」
「は、はは。俺は大丈夫だよ。頑丈にできてるから」
「いやいやそんな馬鹿な、それは別問題ですよ!」
そう力説した夢野にタカさんはまた苦笑していた。
「それでさ、さっきのやっぱ見たよな?」
とりあえず枯れ木を集めて火をつけようとする。
何かあったときのためにと、リュックに色々いれてきて正解だったぜ。とライターを出しながら、さっき見た恐竜みたいなものの話をふった。
「見たよね。あれ、恐竜だったよね?てかまだ近くにいるんじゃ……あと、他のみんなは大丈夫かな?」
火を大きく焚けば、むしろ近寄って来ないだろうという結論になった。
他のやつらのことは正直わからねぇ。
だが薄くなってきたとはいえ、この霧の中簡単には動けない。
「あぁ、温かい……」
ここは湖を背にしているし、少し開けている。
こうやって火を大きくすれば、他のやつが見つけやすいだろう。
「……でも、よかった。河村さんと桃ちゃんがいて。一人だったら不安だったよ。恐竜とかわけわかんないし、あっでも、一人だったら今頃湖のしたか……!やだ怖い!」
自分の独り言に震え始めた夢野の頭をポンポンとしてやる。
まだ髪は乾いてねぇなと手のひらの感触にぼんやり思う。
こいつを見つけれて良かったと思った。
目が離せねぇというか、目が届くところにいないとまたそれはそれで心配になるし。
「おー、見つけたばい」
「夢野!」
「夢野さん!」
それから暫くして、木々の間からぬっと大きな影が見えたと思ったら千歳さんだった。
その後ろから日吉と幸村さんが走ってやってくる。
「わ、日吉くん!あ、幸村さん!無事だったんですね!千歳さんも!」
「夢野さんも無事でよかったばい」
嬉しそうな夢野にほんのちょっと切なくなる。いやなんか、さみしいというか。あー、わけわかんねぇ。いけねーな、いけねーよ、んな不謹慎なこと考えてちゃ。
「ふふ、僕たちも無事だよ」
「不二!」
今度はタカさんが嬉しそうに声をあげた。
そこには不二先輩と越前たちの姿があったからだ。
それから順々に四天宝寺や比嘉などのメンバーも加わって、最終的にはほとんど全員が集まることになった。
「そういえばタカさん。僕はちょうど湖のむこう側にいたんだけど。夢野さんは大丈夫かい?心臓マッサージと人工呼吸をしなきゃいけないぐらいの状態だったんだよね?」
「ぶっ、ふ、不二?!」
タカさんの人工呼吸の話は一気に全員が知っている話となったのだった。
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