いふーなー物言いに振り向いたら、夢野さんだった。
「今度はたーさー?」
「ほら、この手首の感じだよ。柳生さん!」
「あー」
なるほどと首を縦に振って夢野さんの頭を撫でてみる。
湖に向かっている道中、夢野さんは暇なのかずっと誰かの物真似をわんに見せてきた。
頭を撫でているわんを見上げながら、夢野さんは涙目だった。
……やっぱり兎に似てる。
「うぅ、新垣くんがまた私をペット扱いしてる」
「しわさんけー。いふーなーいなぐだと思ってるさー」
「皺?さん?え?」
「心配するな。変な女だと思ってるって言ってるさー」
よせばいいのに、甲斐さんがわんの台詞を彼女がわかりやすいように伝えていた。
「な、なにをー」
「わっ、わんじゃない!新垣!新垣さー!!」
「はっ、そうだった!タァッ!!」
「あがー!」
いきなり飛びかかってきた夢野さんの指が腰の間をぐさっとさしてきた。
甲斐さんはそんなわんを見て笑っている。先輩なのにひどい。
「悪は滅び……ひゃっう!」
振り向いたら夢野さんは転けていた。
この子が転けるところを見るのは何回目だろう。
慌てて夢野さんの手をとる。
「大丈夫さー?」
「う、うん、大丈夫。ごめんね、ありがとう」
「ほら、つかまるさー」
反対側から不知火さんがわんと同じように手をさしのべていた。
横目で甲斐さんを見たら出遅れたらしく、差しのべようとしたらしい手を空中でパタパタさせている。それを知念さんと平古場さんにからかわれていた。
「不知火さんもあ、ありがとうございます。平にすみません……」
騒いだことも反省しているらしい。
そんな表情を見ていたらまた夢野さんの頭を撫でていた。
「そ、そばかすが可愛いからって、女の子の頭をナデナデしまくっちゃダメだよ!」
「いやひっちーは、こんなことしないさー。それが不思議さー」
涙目でふるふるしている様子を見ながら、あぁ、守ってあげたくなる子ってこういう子なのかなってひっそり考えていた。
湖についたのはそれからすぐで。
夢野さんは氷帝のメンバーに呼ばれて、駆けていった。
「……新垣。やー、睨まれてたさー。りんちだと思うさー」
「あーはい、気づいてました」
不知火さんの台詞に小さく頷く。
だけど、小動物みたいでつい撫でたくなったのだから仕方がないと思う。
あと、初めていなぐからそばかすが可愛いって言われたさー。
あれはちょっと嬉しかった。
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