湖の霧と目撃情報
「ふぉおう、もうダメ!みなさん、私の心臓がパンってなります!パンって風船みたいにパンっ!」

「パンパン煩い、静かにしろ」

冷たい声音で若くんが私の口をふさいできた。

だって、でも、仕方がないじゃないか!
昨日熱のため丸一日小屋に閉じこもっていて、そしたら、昼食時に事故を起こしてしまった金田くんと笑い上戸の森くんとなに考えてるかわからない内村くんが来てくれて。
かと思ったら、夕食時は忍足先輩と岳人先輩がご飯を運んできてくれた。
それだけでも十分なのに、現在朝食時にはほとんどのみなさんが私の体調を心配して声をかけてきてくれるのである。
幸村さんとかすごい心配してくださってたし、壇くん可愛いし、樺地くんはもう何から何までありがとう過ぎる!
だからイケメンすぎるよ、みんな!

「私に分裂できる能力さえあれば、一人ずつみなさまのお手伝いができるのに!」

「やーは、ふらーっ」

若くんから逃げてそう叫んだ私に平古場さんがいきなりでこぴんしてきた。

「分裂って……貴女、ゾウリムシか何かですか」

「痛いっ、額は物理的に!心は木手さんの冷たい眼差しに!」

さらに気持ち悪いものを見るような目で、平古場さんと木手さんにため息をはかれた。
そして甲斐さんに笑われた。

「……こほんっ、夢野。回復してテンションが高いところ悪いが、ミーティングを進めてもいいだろうか?」

手塚さんに怒られる。
むしろ手塚さんがテンション高いところ悪いがと言った台詞が驚愕だった。まさか、そんなことを口にされるとは。いや口にさせたのは私か。なんかものすごく申し訳ない。

「……馬鹿だーね」
「バーカ」

何故か電波で柳沢さんと神尾くんの台詞を受信した。後で絶対脇腹くすぐってやる。覚えてろ。

「煩いのが黙ったところで続けるが、昨日、大石たちが竜崎先生を目撃したらしい」

跡部様がため息混じりにそう続ける。
表情はどこか険しい。それは手塚さんもだ。

「間違いなく、竜崎先生だった!でも、いくら声をかけても振り向いてもらえなくて。むしろ俺たちから逃げるようにして行ってしまって……見失ったんだ」

「先生たちなら、僕たちを見つけたら逃げるなんてないと思うんですが」

説明した大石さんも、その報告を聞いた葵くんもどこかしゅんと落ち込んでいるように見える。

「ふしゅう〜、それにその近くの湖で霧が発生して、それ以上の探索ができなかった……っす」

「あー、あれ、すごい霧だったよねぇ」

薫ちゃんの報告に、一緒だったのか千石さんがうんうんと頷いていた。

「濃霧、か……」

「でも、跡部!やっぱり今日はみんなであの湖周辺を探索した方がいいと思うんだ!」

「俺もそう思うにゃ〜」

跡辺さまが難しい顔をすると、大石さんと菊丸さんは探索を切実に願い出る。
私も先生方の目撃情報があるなら、その辺りを探索した方がいいと思った。

「そうだな。だがまた霧が発生すれば道に迷ったり怪我をする危険性もある……」

「でも、もしかしたら、その霧のせいで先生方は身動きとれないのかもしれないよ?」
「あぁ、その可能性はある」
「そうだな。まぁずっと霧が出ていた確率は極めて低いが……その湖周辺では特殊な条件が揃っているのかもしれない」

手塚さんが首を横に振ろうとした時、不二さんが遮った。乾さんと柳さんも不二さんに賛成のようだ。
さっきまで落ち込んでいた大石さんと葵くんの顔が三人の助け船によって嬉しそうだった。

「まさか……止めはしませんね?言っときますが今回は我々だけでもやりますよ?」
「木手……っ」

木手さんたち比嘉のメンバーは行く気満々のようで、たとえ跡部様が止めたとしても思い止まるのは難しそうだ。

「……夢野、お前はどうだ?」

仕方なしといった様子で跡部様が私に話をふってきた。
私の答えは決まっている。

「私は、探しに出掛けた方がいいと思います!」

榊おじさん待っていて。
先生方もどうか怪我などしていませんように。

「……仕方ねぇな」

諦めたような顔をした跡部様は、指を交差させてパチンっと音を鳴らしたのだった。





「……それよりも、金田くん。昼食時に起こしてしまった事故とはなんです?」
「金田……?昨日、何もなかったって……」
「み、観月さん!ゆ、裕太っ、あの、それはっ!……くっ、夢野さんの独り言なんて嫌いだ……っ」

(……肝心の本人が秘密を抱えられない人間だもんな。御愁傷様、金田……)
「……ぷふっ」

「内村、その憐れむような顔やめて!つか、森はまた笑うなぁぁあっ」

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