「いや、でも、さっきのは一昔前の少年漫画にあるラッキースケベってやつだよな、面白すぎる……っ!ぶははっ」
「ちょ、森くんはなにしに来たの?!」
体調が悪いらしい夢野が叫んでるが、俺は気にせず笑い続けた。
お陰で腹が痛い。
「森は放置して。……大丈夫なのか?」
内村が俺を無視して夢野に話しかける。
小さく首を縦に振ってから、夢野はテーブルの上にあるお粥に手を伸ばしていた。
「あっつ!」
「ぷっ」
「くっ、また!どれだけ私を笑えば気がすむんだ!いいよ、笑いは福を呼ぶらしいよ!どんどん笑いなよ!」
カモーンっ!!と叫んだ夢野はやはり面白い。
俺だってこんなに笑い上戸じゃなかったはずなんだ。夢野と出会ってからである。
つまり俺が笑い上戸になったのは、夢野のせいなんだ。
「……熱は下がってるっぽいな。平常運転みたいだし、帰るか。あ、大人しく寝とけよ。今日一日ぐらいは」
「内村くん、オカンみたい」
内村が無言で夢野の頭上にチョップを振り下ろす。
でも夢野に関しては、ほとんどのやつがオカンみたいになってるだろ。
みんな世話好きというか、あぁ、違う。放っておけないようなオーラというか、ついかまってしまう雰囲気を夢野が漂わせているせいだよな。
しかし少し前に夢野が言っていた家族妄想というやつで、内村だけ弟枠だったような気がする。そう考えると今のも面白いよな。
管理小屋から外に出ると、金田が疲れた顔をして待っていた。
どうやら越前と忍足さんは納得できたのか、昼食をとり始めてくれたらしい。
「……なんとか噂が広まるのを阻止した」
「お疲れ様」
「お前らが俺を売ったのを忘れない」
「すまん」
「え、ごめん」
売ったつもりはなかったが、内村に続いて謝っておく。
それほど金田の目は死んでいたからだ。
「とりあえず、深司に元気そうだったと報告してくるか。ついでに神尾にも」
「あ、俺も裕太に報告を……」
「え、ラッキースケベを?」
口にした瞬間に既に金田に首を絞められていた。割りと本気で。
ごめんごめんと謝ればやっと金田は俺の首から手を離す。恐ろしい。そしてやばい、面白い。
「いいか!絶対、口に出すなよ!特に森!!」
おぉ、念をおされた。
だがすげぇ口許がニヤニヤしてしまう。
内村がため息混じりに俺を見ていた。
いやわかってる。いっちゃダメなのは。
だがそう理解すればするほど、腹がよじれるというか、ニヤニヤしちゃうというか。
「おーい、お前ら食べないのか?」
そうこうしているうちに、不動峰の他のみんながかたまっている席の辺りから、桜井が俺らを呼びにやってきた。
「食べるー」
へらっと笑ってそう返事して。
またため息ついてる内村に「幸せ逃げるぞー」と背中を叩いたら「お前が笑ってるぶん、福がくるから大丈夫だろ」と返された。
遭難してもこうして笑っていられるのは、橘さんという存在も大きいけれど、やっぱり夢野がいることかなとぼんやりと思う。
そして内村や他のみんながいて。
「ふふ」
やっぱりまた笑ってた。
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