「ぶはっ」
思わず吹き出してしまった。
なんでこいつはいつも予想外の発言をするんだ。
「んんっ、で、なんだ。見られたのがショックってとこか?」
俺が吹き出したのをぽかーんとした顔で見ている夢野に、こほんと咳き込んで平静を装う。
「いえ私の場合まだ前に小さいパンダタオルも持ってましたし、いや確かに恥ずかしいですけども諦めというか、それよりも見てしまったのが衝撃的で……」
もごもごと後半にいくにつれ小さくなっていく。先程の全身大学生以上!っという叫びを思いだし、また危うく吹き出すところだった。
プルプルと肩が震えてしまいそうになるのを必死に我慢し、真面目な顔を取り繕う。
「まぁ事故だし忘れ……アーン?」
「忘れようとして忘れてたのに、跡部様がまた思い出させたんですよー!」
もーぉ!とバシバシ俺様を叩くとはいい度胸じゃねぇか。
顔を真っ赤にして唸る夢野に、変な悪戯心が芽生えてきた。
それは俺が目の前にいるのに真田のことばっかり考えていることへの気に食わなさからか。それが単純に何故か、なんて考える前に。
俺は行動に移していた。
「夢野、すぐに忘れさせてやろうか、アーン?」
夢野の顎をくいっと持ち上げる。
無人島に来てから真剣に落ち込んでたかと思うと、俺を簡単に信じて立ち直り、ヴァイオリンの音が変わったかと思えば、人を母親や父親呼ばわりし、こんなバカみたいなことでまた悩む。
なんて忙しないやつだ。
……でもそんなコイツを気に入っているのは事実で、面白がって側に置いておきたいと思うこともある。
「あ、と……べ様……?」
大きな目がより一層見開かれる。
その瞬間にヤバイと思った。
屈んで夢野の唇に重なるかの瀬戸際でそっとずらし、頬に口づけを落とす。
夢野と俺しかいない小屋の中が、その瞬間やけに静寂に包まれた。
唇が離れるときに微かな音が鳴る。
「……じゃーな、夢野。鍵閉めてから寝ろよ」
余裕の表情でそう言った。最後にぼけっと固まったままの夢野の額を軽く叩いてから小屋を出る。
「……っ、くそっ」
ヤバかった。
俺はあの時何を考えてたんだ。
ほんの少し芽生えた悪戯心。そして妙な独占心。
それらが、大きな過ちを犯すところだった。
頬に落とした口づけは、我に返ってからした修正行動。
もし理性が働かなかったら、俺は──
「俺様が……アイツの唇を、だと?」
気の迷いだ。
触れるか触れないかのギリギリ。
俺は夢野をそういう目で見てない。
だから──
「……気が弱くなってるのか」
合宿の計画崩れ。
そこからきている僅かなストレス。
そう、だ。
そうに違いない。
だがもしそうでないとしたら……?
俺は無意識にアイツを求めたことになる。
その理由を考えるのは夜の闇が深すぎる。だから止めることにした。
それも言い訳だと知りながら。
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