一心不乱に練習する。
「な、なななぜだ!」
カッと独りぼっちで吠えた。
頭の中に過る真田さんの筋肉が消えない。大変だ。ヤバい。変態か、えくすたしらいしーさんなのか!ふぉう、死にそうになるぐらい恥ずかしい!!
乙女として口には出せない部分も記憶してしまったこの脳味噌は切除した方がいいんじゃないだろうか。っていうか、忘れようよ、ねぇ忘れなよ、自分!
そう考え込んでしまうのが悪いのか、余計にぐるぐるした。
確かに衝撃だった。それは認めよう。
何故なら真田さんは中学生の男の子という名称がもとより似合わぬ人だからである。
「全身大学生以上!!」
アホみたいに大声で叫んだら、やっとちょっと落ち着いてきた。
これで忘れられる気がする。王さまの耳はロバの耳みたいな感じで、衝撃を口に出さないとやっぱりダメだったのだ。
童話とは違い、誰に聞かれることもない。
もう自分のなかで落ち着きは取り戻した。
衝撃は吐き出したのだ。
いける、これで明日からも真田さんにあっても平常心で過ごせるはずだ。
再びヴァイオリンを構える。
「いや寝ろよ」
「なんだって?!」
吃驚した。
口から心臓が飛び出るところだった。
いや、それよりも何故跡部様がここにいらっしゃるのだ。
「鍵が開いてたぞ。それからもう真夜中だ。練習は止めろ。まぁ他のメンバーの睡眠妨害をしたいってんなら止めねぇがな」
「ひらに、平にすみません!」
そんな時間だったとは!
電波の繋がらない携帯電話の画面を確認してから頭を下げる。
明日、皆さんに謝らなくては。
「……で、何が全身大学生以上だって?」
「思わぬピックアップ!!」
「アーン?普段にさらに輪をかけて変だぞ、夢野」
「ナチュラルな悪口!」
この言葉の応酬をしていたら、さっきの発言を忘れてくれないかなと期待してみたが、跡部様は忘れるような人じゃなかった。
「で?」
ニヤリと不敵に笑った跡部様は、既に答えを知って言っているんじゃないかと思うほどだ。
私は諦めて小さく息を吐き出してから、ぽつりと漏らすのだった。
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