「謙也、追いかけようやー!!」
「任せとき!!」
浪速のスピードスターをなめんなやっちゅー話や!
金ちゃんと一緒にうおりゃああっと一気に山道を駆け上がった。
追い抜いた時の跡部くんとかがすごい奇妙な顔をしとったが、気にせぇへん。
大体、泣いてる夢野さんを比嘉中なんかに任せとけるわけないやろ!それにこれ以上彼女の魅力にハマるやつがおってたまるかいな。
「うおぉおりゃあぁっ」
「わぁ謙也さん、全力疾走して大丈夫ですか」
「うおわぁっ?!」
「ど、どないしたん?!」
山小屋の前で先についていたらしい夢野さんに声をかけられて、つい飛び上がってしまった。金ちゃんが目を見開いて驚いとるが返事ができひん。
そうやった。
俺、勢いで走り出してもうたけど、夢野さんとまともに会話できひんのや。
あかんねん。
どんだけ落ち着かせようとしても、夢野さんに見つめられると心臓がアホみたいにバクバクして、呼吸困難になりそうになんのや。
「そ、そ、そういえば、比嘉のやつらは……」
「そうや!ねーちゃんを誘拐したやつどこいったん?」
「え、誘拐?!……金ちゃんは甲斐さんのことを言っているんだろうか……えっと、山小屋がいくつかあるので、調べると……」
「夢野さんを放っといてか?!」
丁寧に答えてくれた夢野さんやったけど、俺は比嘉のやつらにいらっとした。
何かあったらどないすんねん!
ただでさえ夢野さん、あの飛行機事故のこと思い出しとる言うのに。
「謙也さん?」
「俺はそばから離れへんで!俺の前では強がらんでえぇ!……それに誰も夢野さんのせぇや思てないからな?!」
さっき何回か泣いとったからやろうか、赤くなってる目と鼻の先につい大声でそう言った。
ぐっと両肩を掴んで真っ直ぐ視線を絡ませる。
「……え、えっと、……謙也さん、すみません、恥ずかしいです、あ、いや、違う。その、謙也さんが格好良すぎて心臓停止してしまいそうです、あ……ありがとうございますっ」
先に目線を逸らしたのは、俺やなくて夢野さんやった。
胸元を手で押さえながら下に俯く。
金ちゃんが「ねーちゃんそこ苦しいん?」と背中を撫でていた。ふるふると首を横に振る夢野さんの表情はまだよく見えない。
「……そ、それに、私、立ち直り早いんですよ」
心配かけてすみません、と小さく呟いてから、そう続けた夢野さんは、顔を上げた。
白い歯を見せて、満面の笑顔やった。
「……ほ、んまやな」
今度まともに相手の顔を見られへんようになったんは俺の方やったけど。
楽しそうに笑う彼女が好きやからしゃあないわ。
その後すぐにやってきた白石に「夢野さん元気になっとるけど、何かあったん?」言われ、財前には「……謙也さん、詩織に近づかんといてください」と睨まれた。
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