お風呂も済ませたのですが、やはり合宿。これからまた最後の体力強化の練習があるみたいです。
「壇。ドリンクやタオルはペンションの人が準備してくれるらしいから、先に寝ていてもいいぞ」
南部長が優しく笑ってそう言ってくれた。
確かに明日の朝も早いようなので、その時の準備の為にも早めに寝た方がいいと思う。
「……え、これから再び練習したら、また汗かくんじゃ」
「そうです!だからまたシャワーだけでもするらしいですっ」
千石先輩たちを見送ったら、夢野さんが僕に話しかけてくださった。……と思って横を向いたんですが、どうやら違ったようです。
すごく驚いた顔をしていたので、また夢野さんの独り言だったのかもしれません。
夢野さんはその後、ヴァイオリンを弾いてから寝ると続けて教えてくれた。
なんだ。夢野さんも皆さんと同じく練習するんじゃないですか。
「夢野さん、応援してるですっ!……テニスも、僕は先輩たちを応援することしかできないですが……っ」
「……壇くんって、本当はテニスしたいんじゃないのかな?」
「……え、あ。……でも僕こんなチビですし」
去り際にかけた言葉に、夢野さんは困ったように首を傾げた。
「あのね、うまくいえないけど、才能は人それぞれだと思う。でも、努力することは誰にでもできるんだよ。……それにチビっていうなら、リョーマくんも小さいけど……あ、これ本人に言っちゃやだよ?!」
「……越前くん……努力」
確かに越前くんは小さい。でもテニスはすごくうまかった。
「……壇くん?」
「ありがとうです!越前くんみたいになりたいですっ」
気合いを入れた僕に夢野さんは優しく微笑んでくれる。
あぁ、夢野さんの力になれたらなんておこがましかったかもしれない。少し恥ずかしくなる。
「……でも壇くんが努力してもなれるのはリョーマくんじゃないよ。壇くん自身の成長だからね」
夢野さんの微笑みから逃げ出すように駆け出した僕に、彼女がそんな言葉をかけてくれていたなんて知らなかったのでした。
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