予兆
「なあ、キッド。もしおれが死んだらどうする?」
部屋のドアを開けるなりそう言ったキラーの声は、ただの冗談にしては震えていた。
だいたい、話の流れならともかく、わざわざ部屋まで突然にやってきて言う事じゃない。
「どうするって言われてもな……とりあえず、間違いなく落ち込むな」
「それは、そう言ってもらえて嬉しいんだが……旅をやめたりしないよな?」
切羽詰まった様子でそう訊くキラーを不審に思いつつも、おれはこう答えた。
「……お前が死んでも旅は続けるぜ。やめたら、それこそ無駄死にじゃねェか」
「そうか……ならいいんだ」
キラーは安心した様子だったが、突然そんなことを言われてこっちは気が気じゃない。
占いやら予言を信じるタイプじゃないのは重々承知だからこそ、なぜそんなことを聞くのかが気になった。
「なんかあったか?」
「何も無いんだが……何となく気になったんだ」
「何となくで縁起でもねェこと言うなよ」
「そうだな、すまない……。それと……頼むから、忘れてくれ」
キラーはそう言った後、じゃあな、と言って扉を閉めた。
あまりの挙動不審さにすぐに追いかけようと廊下に出たが、もうそこにキラーは居なかった。
朝になって、昨日のことをキラーに訊いた。
「キラー、昨日のはなんだったんだよ」
「昨日? 何かあったか」
ワケが解らないといった様子で首をかしげるキラーに、こっちもワケが解らなくなってしまった。
「覚えてねェのか?」
「覚えてないというか、知らないんだが」
「……そうか」
キラーの様子を見ていると、とても嘘とは思えない。
もしかすると、アレは夢だったのかもしれないと考えたおれは、適当に茶を濁して話を切り上げた。
数か月後に起こった負け戦の後、おれは『あの夜のキラー』がどこから来たのかをようやく知ることになった。
【あとがき】
死ぬ直前に数分間だけ過去へ戻ったキラーとか。
実体あるけど幽霊みたいなアレで、姿は当時と同じとかそんな感じ。
「忘れてくれ」は二つ以上の意味でお願いします。
とりあえず、
死ぬ直前に会いたいのはキッドで、知りたいのはキッドの意思
とかそんな感じのキッドしか見えないキラー希望。
良いなと思った方は是非→
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