騙し合い

【前提】

 診断(http://shindanmaker.com/446414)ネタです。

《心の汚れ度》
キラー〔 444 % 〕
100〜 悪魔

キッド〔 58 % 〕
51〜70 腹黒

↑この診断(内容省略してあります)で色々暴走(※)した結果書くことにしました。
(※:キラーがキッドを手に入れたいと思ってるとか、キッドはそれを承知で上手く利用しつつ一緒に居るとかそういう感じの。お互いを気に入ってはいるので殺伐ではない)

 三本立てです。

【出会い】

 おれは、欲しいと思った物は手に入れて独占しなければ気が済まない性分だ。
 ただ、人間に関してはとても難しい事だった。というのも、独占する為に相手を他人から遠ざけると、実現出来そうになる頃には決まってこの世界から去ってしまうからだ。
 毎回おれに向けて手紙を遺してくれたから、それを手に入れる事である程度その欲求を満たす事は出来たが、やはり満足出来なかった。
 そこでおれは、手に入れたいと思った人間は頃合いを見計らって殺す事にした。一人殺すとその島にいられなくなるから、おれはどこかに定住する事もなくずっと島を渡り歩いていた。
 そんな事を続けた結果、おれは海賊としてではなく連続殺人鬼として手配される事になった。うかつにも、数件の現場が地元の住人に目撃されていた為だ。
 手配されてからは海軍のモノや賞金稼ぎに追われる身となり、特に愉しくもない殺人を行う羽目になった。これがせめて欲しい者の為に行う事なら、と考えていたそんな時、おれはある男に出会った。その男を見た瞬間、おれの心は釘付けになった。

「お前が“殺戮武人”だな?」

 海軍の手配書で勝手に付けられた通称だった。どうでもいいと思っていたそれも、その男が発すると途端に己を表す単語として色彩を得たように感じた。

「ああ。……お前は、誰だ」
「おれはユースタス・キッドだ。海賊王を目指して航海してる」

 海賊王になる。その為には、かつての海賊王の財宝を得る事が条件だそうだが、おれはその宝に興味を抱いた事は無かった。もちろん、それを獲得する事などという面倒な事はしたくない。
 ただ、目の前の男に対して言うべき言葉は、逆だ。

「それは興味深いな、是非話を聞かせて欲しい」
「おう。ここじゃ何だし、まずはおれの船に来いよ」

 そう言われてついて行ったのが、ある意味ではおれの失敗だった。ただ、特に後悔はしていない。なぜなら、他の物に代えがたいほどに欲しくなる人間に出会ったのは、後にも先にもこれきりだったからだ。




【シャボンディ諸島ネタ】

「おい、キラー」
「何だ? キッド」

 キラーはおれが呼ぶとすぐに来る……というよりは、大体おれのそばに居る。たまに離れる事もあるが、それはおれがそうしろと指示した時くらいだ。

「少し島の中を調べてこい」
「……分かった」

 やや間を置いてからキラーはそう返した。こうやって、近くから離れたくないという感情を抑えて応じるのを見るのが割と面白い。それと、これも演技かもしれないと深読みするのも愉しい。

「3時間後、オークション会場で待ち合わせだ」
「了解した」

 こういう会話のどこまで演技なんだろうか、と考えると愉しくてたまらなくなる。いずれ素のコイツを見られるとしたら、それはおれがコイツの物になった時なんだろうが、今はまだそのつもりはない。

「じゃあな、必ず来いよ」



 3時間後、ヒューマンオークションの会場に行くと待ちわびた様子のキラーが居た。おれを発見すると、キラーはこちらに向かってきた。いつものように落ち着き払ったように取り繕ってはいたが、さすがに3時間は長かったのか隠し切れていない。

「で、どうだった」
「ああ、まず……」

 島の大まかな構造から、この島に居るルーキー達の情報をキラーはおれに報告した。スクラッチメンの事など、おれの知っている情報も一部あった。明らかに近くに居たワケだが、その時に話しかけてこなかった辺りは律儀なやつだ。


「以上だ。これだけ揃うと厄介な事が起きそうだが、巻き込まれない事を願おう」
「それはそれで楽しそうじゃねェか?」
「冗談じゃない」

 珍しく、苛立った様子でキラーはそう返してきた。

「万一の事があったらどうする。お前にこんなところで死なれたら、ついてきた意味が……っ」

 そう言いかけて、キラーは口をつぐんだ。何か失言をしたらしいが、今更すぎてその反応に笑いがこみ上げてくる。それを堪えながら、おれはキラーに言った。

「何が起きてもここで死ぬつもりはねェよ、お前らの為にもな」
「そうしてくれ」

 他人に言わせれば呆れたように、おれからすれば少し残念そうにキラーはそう言った。おれ位しか気づいてないだろうが、おれに対する独占欲がむき出しになるのがたまらなく愉しい。
 次にその気持ちを、逆に揺さぶってみる事にした。

「それに、お前が居ればおれを死なせねェだろ?」
「ああ、勿論だ」

 キラーは嬉しげにそう答えた。
 おれに頼りにされている。それがキラーにとって喜ばしい事だと知ったのは、まだおれ達が南の海に居た頃だ。その時は、キラーのそれが独占欲によるものだとまでは気づいてなかったが。

「それじゃ、入るか。面白ェヤツが居れば良いんだが」
「人さらいに捕まる程度だ。大したヤツは居ないだろう」
「そうとも限らないぜ? 思いもよらない掘り出し物があるかも知れねェ」

 そんな会話をしながら、おれ達はオークション会場に足を踏み入れた。


【本性】

「キッド、お前はおれの事を本当に信頼してるのか?」
「当たり前だろ。じゃなきゃ背中任せたりしねェよ」

 おそらく、キッドの言葉自体に嘘はない。自覚としても戦闘の右腕としては信頼されていると考えているからだ。

「戦闘以外ではどうだ」
「サポートに関しても疑ったことはねェ」

 それも当然だろう。すべてを得たキッドからすべてを奪って最期をおれが飾りたいと考えているのだから、そこまでのサポートはいくらでもするつもりだ。

「船員としてじゃなく、おれ自身はどうなんだ」
「お前自身か……たまに何考えてるか分からねェ時があるな。特に気にしてはいねェが」

 一瞬だが、キッドは間違いなく目線をそらした。多分、嘘をついている。
 それでも、本来の目的を考えれば信頼をある程度得ているこの状況で満足するのが良いだろう。
 そんな事を考えているおれに、キッドが言った。

「お前って、おれに従順すぎるんだよな……文句言うのもおれの身を案じるときぐらいだろ」
「それは、おれはお前の夢につきあうと決めたのだからそうだろう」
「そうか? おれには別の目的でもあるように見えて仕方ねェんだがな」
「別、の……?」

 思わず声が引きつった。本来の目的に気づかれたら、もうどうしようもない。

「船長の座を狙ってるとか」
「それはない」
「じゃあアレか? ワンピース横取り」
「そんなことするワケ無いだろう」

 あり得ない事を続けて言うキッドに、おれはただの気まぐれだったのか、とほっと胸をなで下ろした。
 キッドがさらに予想を続ける。

「ならコレか? 実はお前は悪魔で、おれの魂を狙ってる。契約内容は海賊王になるのを手伝う事」
「あのなぁ……ただの殺人鬼に何を求めてるんだ、お前は」

 3つの中では一番真相に近かったが、あまりに荒唐無稽なためおれは特にマズイとは思わなかった。
 キッドは単純なヤツだと侮って考えていたから、そこに真意が隠されているとは思わなかった。

 だが、その考えは次のキッドの言葉で大きく揺らいだ。

「すべて終わったら、おれを殺して自分の物にする気だろ?」
「……だから、おれが悪魔だなんて事はあり得ないだろ」

 そう言いつつも、おれは自分の本懐がキッドにバレている事を確信した。おそらく、最初の回りくどい言い方でおれの反応を伺っていたんだろう、と。

 なんてヤツだ。
 益々、欲しくなったじゃないか。

「あまり突拍子もないことを言うな」

 おれの言葉に、キッドはとぼけたように返した。

「まァ、そうだよな。悪魔は実の中にいるヤツらで十分だ」
「ああ」

 キッドは多分、おれをからかって愉しんでいるんだろう。
 だが、それでも良い、おれが目的を遂げるその日までキッドの傍に居て、最終的におれがキッドを独占できれば、それで。

「それなら、最期までよろしく頼むぜ?」
「勿論だ、任せてくれ」

 お前の最期は、おれが飾るから。




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