悪魔と殺人鬼
※悪魔なキッドと殺人鬼なキラーのクリスマス
※殺人描写あり
おれとキラーが契約してから三ヶ月。世間はクリスマスで盛り上がっている。
悪魔からするとつまらない行事だが、あそこまで盛り上がると意識せざるを得ない。
キラーは、上機嫌でナイフを磨きながら言った。
「クリスマスになったら、公園でやらかしてる迷惑カップルでも襲おうかな」
「いいんじゃねェの」
「そうだろ? 翌朝子供が色々拾ってしまうのを未然に防ごう」
キラーが魂と引き換えに願った内容は、人を殺しても捕まらないようにして欲しい、といういかにも悪魔向きなものだった。
ずっと殺人衝動を抑え込んでいたキラーは、契約が成立した翌日には街に人を殺しに行った。
殺人のあった痕跡はおれが全て消し去るため、自然死として扱われている。ついでにそいつらの魂も拝借するから、割の良い仕事だ。
「クリスマスだし、お前のためにもなるべく多く殺すからな」
「そりゃ楽しみだな」
おれがそう言うと、キラーは楽しげに返してきた。
「クリスマスに一緒に出掛けてプレゼントか……デートみたいだな」
「は……!?」
冗談なのか何なのかよく分からないが、キラーの言葉は少なくともおれを動揺させるには十分だった。
言葉に詰まったおれに、キラーはこっちへ振り向いて言った。
「……そんな反応しないでくれ、気になるから」
「何がだよ」
「秘密だ」
また手元に向き直ると、キラーはナイフを鞘にしまった。
「……なぁ、キッド。お前はおれと契約してよかったと思ってるか?」
「そうだな……殺したやつの魂は食えるし、お前が罪重ねれば重ねるほど得るもの大きくなるしで一石二鳥だからな」
「それなら良かった」
嬉しそうな声で言ったあと、キラーは立ち上がった。
「それじゃ、今日はもう寝る」
「おう」
そんなやり取りから一週間経ったクリスマスイブ。キラーとおれは近所の公園に来ていた。
「思ったよりも居るな。この寒いのに、頭がおかしいとしか思えない」
「それ目当てのお前も大概だろ」
「まぁな……それで、目の前で殺しても大丈夫なんだよな?」
「おう、任せろ」
こっちには記憶操作という便利なものがある。
二人とも殺さないのは、キラーが基本的に女を殺したがらないからだ。
キラーはその理由を「慣れていないから」と言ってたが、何の事だかわからない。
「じゃあ、まずはあっちで真っ最中のカップルからだ」
そう宣言して、キラーはその方向へ進んだ。おれも後始末をするためその後について行った。
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しばらく経つと、救急車が近づく音が聞こえた。
居るとややこしい事になりそうだからと、最後の被害者の後始末をして、おれたちは公園から立ち去る事にした。
帰り道にキラーが呟く。
「あんなに居るとはな……」
「さすがのおれも呆れるぜ」
悪魔からしてもあそこまで堕落してるのをみると呆れる。いい食い物ではあるが、家かホテルでやれと言いたい。
前を向いたまま、キラーが言った。
「明日はさすがに減るかな」
「あんな人数が死んだ公園でやろうって奴は居ねェだろ」
ニュースにはならなくても、噂にはなるだろう。
「じゃあ、明日は休もうかな」
そう言った後キラーは立ち止まり、おれの方を向いた。
「いいプレゼントになったか? キッド」
「十分だ」
「そうか、良かった」
笑顔になるキラーに、おれは常々気になっていた事を聞くことにした。
「キラー。お前はなんでおれが満足したかどうかを気にすんだ?」
「そうだな……好きだから、かな」
「ごまかすなよ」
全て嘘で無いのは分かったが、本当の理由じゃないことも分かる。
「……夢をみたんだ」
「夢?」
「その夢だと、お前はおれの全てだった」
冗談を言ってる目ではなかった。
「お前に会うずっと前から、おれはお前を知っていた。お前の事が好きだった」
「キラー、お前は……」
「だから、おれは契約したんだ。もちろん、殺人欲求は本当だから安心してくれ」
そう微笑んでから、キラーはナイフに目を移す。
「このナイフ、その夢でお前が使っていた物なんだ」
「……骨董屋で買ったってヤツだよな」
「ああ……つまりな、本当にあった事なんだ。どうしてお前が今は悪魔で、何も知らないのかは分からないが」
悲しそうな表情でそう言ったキラーは、ナイフを握りしめた。
「でも、何だっていいんだ。お前が目の前にいて……おれは好きにやりながら、お前の役に立てるんだから」
そこまで言って、キラーは感極まったようにおれに抱きついた。
「最期までお前のために生きられるのが本当に嬉しいんだ……キッド」
「……おう」
その日がいつか来ることを改めて自覚すると、胸の奥に鉛が詰まったような気分になった。耐えきれなくなったおれは、キラーに声を掛ける。
「すぐに死ぬんじゃねェぞ」
「ああ、今度はもっと貢献してから死にたいな」
「そうしろ」
我ながら悪魔らしくない感情を抱えつつ、おれはキラーにそう言った。
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