日記

※現パロ
※病み気味キラーと転生ほのめかしキッド




 一月十日
 キッドの誕生日だ。
 ゴーグルをプレゼントしたら喜んでくれた。
 
 二月二日
 今日キッドに告白された。
 嬉しい。もう誰にも渡さない。
 ずっと一緒に居たい。

 二月十四日
 バレンタインチョコを贈り合った。
 勿体無くて食べられない。
 賞味期限ギリギリまで待とう。

 三月十四日
 ホワイトデーも、お互いに贈り合った。
 前から欲しがっていたアクセサリーをあげた。
 腕時計をもらったから、大事に使おう。

 三月二十五日
 腕時計が壊れてしまった。
 歩道でスピードを出していた自転車に軽くぶつかったせいだ。
 許さない。突き止めて復讐する。

 四月四日
 犯人の家を突き止めた。
 訪問したら、青ざめながら謝罪された。
 必死に謝ってくれたから、復讐はやめて時計の修理代を貰うだけにした。

 四月十二日
 キッドとデートした。
 おれの贈ったアクセサリーを着けてくれていて、嬉しかった。
 大事にしすぎて普段は着けられないらしい。可愛い。

 五月十日
 キッドが知らない女と話していた。
 誰なんだ。
 おれが知らない知り合いがいて、しかも女だなんて。どうしよう。

 五月十五日
 ブログを始めてみた。
 ただの日記じゃつまらないし、作った料理とか載せてみようと思う。
 あと、個人情報とか気をつけないとな。

 五月十八日
 この間の女と遭遇した。おれの事をしっていた。
 バイト先の知り合いらしい。そういえば、キッドのバイト先の近くだった。
 キッドの事を聞いてきた。教えなかったけど。

 六月一日
 あの女が死んだ。飛び降り自殺ということらしい。
 おれのキッドに手を出そうとするからだ。
 ただの知り合いなら関わらなかった。

 六月二日
 脅されてると相談されていたらしい。
 あまつさえ、駅まで送って欲しいと頼んでいたとか。
 ボディーガードなんてやってキッドが怪我したらどうするんだ。

 六月十日
 一人抜けたからバイトが大変らしい。
 早く新しい人来るといいな。
 いっそおれが入りたいが、時間が合わない。
 』



 所々、不穏なことが書いてあった。
 思えば今回のキラーは執着心が割と強く、物を中々捨てられないタイプだった。とはいえ、最近は物に執着する事が減ってきたため、その性質は薄れたのだとキッドは思っていた。

 だが違った。

「おれ……って事か」

 捨ててきた物に等しい、またはそれ以上の執着心。それが自身に向けられているのだとキッドは気がついた。
 前からうすうす気づいてはいたが、コレで確定だ。

「……悪くねェな」

 悪くないどころか、むしろ嬉しいことだった。

 問題は、日記の内容だ。
 時計の件は、当人同士で解決しているからいいとする。ただ、バイト先の女の方はそうもいかない。

 この日記が他人に見つかったらマズイ。


 五月三十一日
 呼び出すと、何の疑いも持たずやってきた。
 落とされそうになって、抵抗したらうっかり落ちてしまった。
 明日には発見されるだろう。


 この内容では、万一の時、“キラーが関わった証拠”になってしまう。
 処分するためページを破り取ろうとすると、部屋の扉が開いた。

「キッド……何してるんだ?」
「……これ、処分してもいいよな?」
「お前が、そうすべきだと思うなら……」

 戸惑った様子だったが、掛けられた言葉からキッドを味方だと認識したらしく、キラーはそう答えた。
 不安げなキラーに向かって、なだめるような声でキッドが言う。

「このページだけ破れば十分だろ。毎日書いてる日記でもねェし」
「ああ……ごめんな」

 落ち込んだ様子でキラーはそう返した。キッドはページを破りとってキラーに近づくと、頭を撫でて言った

「お前が無事ならそれで良い」
「ありがとう、キッド」

 キラーは頬を染めながら、嬉しそうな声でそう言った。


   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 キッドがを処分するため部屋を出ると、キラーはページの減った日記を眺めた。

「(本当は、全部嘘だ)」

 脅迫状どころかメールを送ったことすらないし、当然会って落としてもいない。多分、本当に自殺なのだろう。
 脅迫状の犯人が殺したのかもしれないが、それはどうでもいい事だ。

「(……お礼くらいは言いたいかもしれない)」

 そもそもその日、キラーはは別件で出かけていてそんな暇はなかった。実際に彼女の死を知ったのは、キッドに告げられてからだった。



「あの女が死んだらしい」
「……何でそんな事知ってるんだ?」
「ああ、店長から聞いた」
「なるほど」

 なんとなく違和感を抱きつつも、そこで思いついたのが、キッドを試すことだった。
 元々、キッドはキラーの日記を見ていた。キッドによれば、自分が居ないときにキラーが何をしてるのか知りたいから、らしい。
 話題に出すことはほとんどないが、決まって月に一回、十二日に読む。そのため、仕込む猶予はあった。
 ブログを始めてから放置していた日記を引っ張り出すと、真実を混ぜつつそれらしい内容を書いていった。



 そして、日記を見たキッドはキラーの味方になってくれた。

「嬉しいな……」


   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 キッドはキラーに黙っていた事があった。それは、あの日記が嘘だと知っていることだ。

 正確には、彼女が死んだ場所にキラーがいなかったことを知っていた。
 キッドは偶然目撃しただけなのだが、彼女はその日、男と言い争っていた。場所は、バイト先の屋上だ。ゴミを出しに来たら遭遇した。

「(こんな所であぶねェな)」

 この屋上はフェンスが低めで、すこし運が悪ければもみ合っているうちに落ちてしまいかねない。
 危ないし助けに入る義理も無い、と立ち去ろうとしたとき、叫び声と何かが落ちる音が聞こえた。
 気になったが、今行ったらマズイ。下から確認した方が安全だ、とキッドは判断し、階段を降りた。

 深夜帯だったことと、落ちたのが裏路地の方だったことが原因らしく、キッドが行った時も騒ぎは起きていなかった。
 近付くと、明らかに死んだ状態の彼女がいた。

「(……放っとくか)」

 警察に連絡するにしても、このタイミングじゃ自分がやったと疑われかねない。そう考えたキッドは、その役を運の悪い他人に任せることにした。

 帰宅した時、キッドはキラーに彼女が死んだことを告げた。前から気にかけていたし、喜ぶと思ったのだ。
 が、タイミングを誤ったらしくキラーは怪訝そうな顔をした。

「……何でそんな事知ってるんだ?」
「ああ、店長から聞いた」
「なるほど」

 そう返しつつも腑に落ちない様子だったのをキッドは心配していたが、杞憂だった。キラーはキッドを疑ってなどいなかったのだ。

 とはいえ試すような事をされたのはこれが初めてだった。

「前みてェに信頼してくれねェのかな……」

 命を預けたころに比べると、そういう所がキッドには物足りなかった。だが、平和なところで楽しそうにするキラーを見ていると、それでもいいかと思えた。

 いま信頼されていないなら、されるようになればいいだけなのだから。


   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 キッドが部屋に戻ると、キラーは携帯を眺めていた。キッドの携帯だが、いつもの事なので特に気にしない。

「シュレッダーにかけてきたぜ」
「ああ、おかえり」
「他にマズイものあるか?」

 キッドが問うと、キラーは首を振った。

「あれ以外はなにも。ところでキッド……」
「なんだよ?」
「これ何だ?」

 すこしいぶかしげな様子でそう言いながらキラーが差し出したのは、メール画面だった。送信者名を見てからキッドが答える。

「ああ、そいつな。サークルの後輩だ」
「仲良さそうだな……」

 拗ねた様子で呟いたキラーに、キッドが返す。

「何かと絡んでくんだよ……シカトするわけにもいかねェし」

 面倒そうにキッドがそう言うと、キラーはホッとした様子だった。

「じゃあ、何かあったら言ってくれ。おれがなんとかする」
「何言ってんだよ……ただの女子大生だぜ?」
「ああ……そうだな」

 そのやり取りをしてから、キッドはふと、昨年同級生が行方不明になった事件を思い出した。
 彼女も、キッドに付きまとっていて、最後の方は脅迫交じりだった。だが、キッドはあまり気にしていなかった。襲われても勝てる見込みは十分あったからだ。

 しかし、何事も起こらないまま彼女は失踪した。

「なぁ、キラー」
「ん?」
「今回だけか?」

 意図のわかりづらい質問。しかし、キラーはその意図を理解したようだった。
 キラーが、困ったような笑みを浮かべながら答える。

「そうだな、今回以外はおれだぞ」
「……そうか」

 キッドはそう言って笑うと、キラーの頭を撫でた。

 キッドは、どんな所であろうが自分のことを守ろうとするキラーが愛しかった。キラーは何も覚えていないのだが、それが余計に運命的なものを感じさせる。

「……お前がなにをしようが、おれはお前を見捨てたりしねェからな」
「ありがとう、キッド」

 そう言って、キラーは幸せそうに目を細めた。

「お前を守ってやるよ」

 あの頃は言えなかった言葉を告げて、キッドはキラーを抱きしめた。




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 リクエスト品の副産物です。

 キッドもキラーに付きまとうストーカーを追い払ったりと頑張ってる設定です。




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