【理不尽】


 島に着いた当日、おれは島には行かず船長室にいた。
 出かける気が無いというキッドの暇つぶし要員としてだ。
 珍しい事ではあるが、確かに船から見ても退屈そうな場所ではあった。

 そんなわけで時間をつぶしていると、キッドが酒を取ってくるといって部屋を出た。
 その間、読みかけの本を読んで待つ。

 しばらくすると、キッドが酒瓶を一本持って帰ってきた。

「おかえり」
「ああ。……なぁキラー、酒を買ってきてくれねェか? もうこれで最後なんだよ」

 それ自体は、島に着いた日には良くあることだった。
 違うのは、キッドが自分で買いに行こうとしないことだ。
 どうやら本気でこの島に興味がないらしい。

「構わないが……何が良い」
「何でもいい。一本買ってきてくれ」

 一番困る返答が返ってきた。
 だが、仕方ない。どうせ何度訊いても同じ答えしか返ってこないだろう。

「何でもいいんだな?」
「ああ」

 念を押すように確認するとそう返ってきた。

「わかった」

 おれはそう言って部屋から出た。



   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 用事は思ったより早く終わった。
 酒屋の位置が船から近く、そこでキッドが良く飲む酒を売っていた事が理由だ。

 普段飲んでいるものなら文句を言われることはないだろう。

「ただいま」
「おう」

 さっそく買ってきた酒を渡すと、キッドが言った。

「今日これ飲む気分じゃねェんだよな……」

 言ってることが違うぞ。

「……何でもいいって言ったじゃないか」
「そりゃそうたけどよ……」

 不満そうな顔をするな。
 希望があるなら確認した時にちゃんと言え。
 初めて飲む酒ならともかく、いつも飲んでるやつだろう。

 そう言えればいいんだが、わざわざ喧嘩する気はない。
 だからと言って、再度買いに行ってやる気もない。

「……おれはもう知らん」

 そう言って、おれはさっきまで読んでいた本を再度開いた。

 もう、付き合っていられない。






【以下元作品】

[酷い仕打ち]

 酒を買ってこいと言うから。
 何を飲みたいのかを訊いた。

「何でもいい」

 そう言ったから。
 お前が比較的よく飲む酒を買って帰った。

 なのに。

「今日これ飲む気分じゃねェんだよ」

 酒を渡したあとの第一声で、そんなこと言われたら。
 いくらおれだって我慢ならない。

「何でもいいって言ったじゃないか」
「そりゃそうたけどよ……」

 不満そうな顔をするな。
 不満に思うくらいなら、最初からちゃんと指定しろ。

「……もうおれは知らん」

 もう、付き合っていられない。




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