食卓
※ローの好き嫌いについてのお話。
※同居設定。
――今まで知らなかったんだが、ローはパンが嫌いらしい。
何故今更気づいたのかと言えば、おれも基本的にはパスタか米しか食べないから、パンを買う事も食卓に上がることもなかった。
だが、昨日スーパーの試供品パンを貰い、とりあえず消費しようと朝食に出した。
特に文句を言われたわけじゃなかったが、ローがおかずにしか手を付けなかったので訊いてみたら、「嫌いなんだ」と返ってきた。
「知らなかったな……それは」
申し訳なく思いながらそう言うと、ローも申し訳なさそうにこう返した。
「何か知らないんだが、どうも身体が受け付けないんだ」
「そうか……レトルトの粥ならあるが、どうする?」
「ああ、それで。悪いな」
バツが悪そうな様子でローがそう言ったので、軽い調子で、「別に大した手間じゃない」と返した。
台所の棚の中を見ると梅がゆと白がゆが1つずつ入っていた。
とりあえず、念には念を入れて聞いておいたほうがいいだろう。ローが梅干を食べているのを見たことがない。
それと、さすがにパン二枚と粥一人分は食べられる気がしない。
「ロー、梅がゆと白がゆどっちが良い?」
「白がゆ」
一切悩むことなく答えてきた。これはやはり、梅干しも嫌いなんだろう。
その確認は後回しにして、とりあえず白がゆを温めて食卓に持っていった。
「ありがとう」
ローが引き続き申し訳なさそうにそう言った。
「構わない。パンはおれがもらっておくな」
「ああ」
その後は特に問題なく朝食を食べ終え、片付けをしながらローに訊いた。
「なあ、お前ってパンの他に嫌いなものとかあるのか?」
おれの問いに、ローは観念したように話し出した。
「そうだな……言っておいた方がいいよな……。まずは梅干し、それと――」
いくつか挙げられた中に、いままで1回くらいは食卓に出したものもあった。
そういえば、消費の遅いおかずがあったなと思い返す。
あれは嫌いな物があったからだったのか。とりあえず少しは食べてくれていたが、美味しく食べられなかったのだと思うと、少し悲しい。
「言ってくれればよかったのに」
「……前に」
「ん?」
「前にユースタス屋にダサいって言われたからな……できれば黙っときたかった」
ローが気まずそうに目線を逸らしてそう答えた。
なるほど、キッドは好き嫌いの無いタイプだから、偏食は子供っぽいと考えているんだろう。
別に嫌いなものがあってもいいと思うし、できるならおれには格好いいとか悪いとかは気にせずに接してほしい。
おれはその考えを、率直にローへ伝える事にした。
「そういうのもお前らしさだし、おれには隠さないで欲しい」
「……格好悪いとか言わないか?」
「言わないし思わないぞ」
可愛い所も有るな、とは少し思ったが、それだってローの魅力の一つだ。
「そうだ、ついでに好きな物も教えてくれないか?」
「いや……さすがにそれは、キラー屋の好きな物で良いぞ」
少し戸惑った様子でローがそう返したので、おれは再度率直な気持ちをぶつける事にした。
「ロー、おれはお前に『美味しい』って言って欲しいんだ」
おれの言葉に、ローは少し顔を紅潮させて恥ずかしそうに目線を下に向け「わかった」と、答えた。
おれはそんなローを見て「美味しい料理を作ってあげよう」と決心した。
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