vs海賊狩り

※ちょっと性格悪めのキラーがいます。
※キッドが億超えでキラーはまだ、って頃の設定です。



 さっきまで数人いたキッド海賊団の船員は、既にその場から居なくなっていた。

 暫しの沈黙の後、キラーが先に言葉を発した。

「さて……もしもおれを倒したら、お前はキッド達の所へ向かうんだろう?」
「当然だ」
「なら、勝たなければな」

 この海賊狩りは、この辺りでは名が知れている大剣の使い手だ。
 そして、今までにも多くの海賊を監獄送りにしてきた。
 多少頭に血がのぼりやすいのが欠点ではあるが、パワーとスタミナで補ってきた。

 そんな彼の今回の目的は、既に懸賞金が億を超えているユースタス"キャプテン"キッド。
 その部下であるキラーの懸賞金も億に届きつつあったが、それだけの収獲で満足するつもりはなかった。

 久方ぶりの大物に意気揚々と戦闘準備を整える彼へ、キラーが告げる。

「とはいえ……評判だけなら負ける気はしないな」
「なんだと……!?」
「キッドは勿論、おれでも負けないだろうな」

 嘲るように放たれた、自尊心を傷つけるような言葉に海賊狩りは苛立った。

 激昂する彼に、キラーは淡々と更なる挑発を行う。

「結果もみえてるし、早く終わらせないか?」
「そっちがその気ならそうしてやるよ……!」

 募る苛立ちで冷静さを失った海賊狩りが大剣で斬りかかる。
 並の身体能力では避けられない速度で振られたそれを、キラーは軽やかな動きでかわし、そのまま数歩分の距離を置いた。

「その武器、隙が多すぎるんじゃないか」

 キラーがそう言った直後、海賊狩りの居る場所に影が広がった。
 彼が見上げた頭上に広がっていたのは、自分に向かって落下してくる、武器やら資材やらで形成された鉄屑の塊だった。
 そこでようやく、彼は自分が嵌められたのだと気がついた。

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「卑怯者共が……!」

 大量の鉄屑の下敷きになり虫の息の海賊狩りが、憎らしげにそう吐き捨てた。

「海賊に“正々堂々”を求めんのか? 変わった奴だ……なぁ、キラー」
「まったくだ。こっちは捕まったら終わりなのに」

 そもそも作戦だったのだ。
 一対一と思い込ませた上で、怒りを誘い判断力を失わせてから不意打ちをする。

 よくある策で、奇策でもなんでもない。

「お互い命懸けなんだから、引っかかったお前が悪い」
「単独狩りはやめた方がいいぜ、今更だがな」

 キラーの言葉の後に、キッドも海賊狩りを嘲笑うようにそう告げた。

「く、そ……」

 海賊狩りの体力は尽きかけていた。
 そしてキッドの言うとおり、単独狩りでは助けにくる仲間もいない。
 彼の身体を押し潰す鉄屑の下から赤黒い血が流れ、血だまりを作り始めていた。

「さて……海兵でも来ると厄介だ。そろそろ帰ろう、キッド」
「そうだな……せめてトドメは刺さないでおいてやるよ」

 この状況では、トドメを刺さない方がよほど残酷なのは承知の上なのだろう。
 キッドは悪魔のような笑みを浮かべながら、海賊狩りにそう言い放ち歩き出した。
 苦しそうに呻く海賊狩りにキラーが言う。

「良かったな、こういうのは珍しいんだぞ」
「っ……こ、の……」
「万が一助けがきたら、キッドに感謝するといい」

 冗談めかしてそう言った後、キラーも背を向けて歩きだした。

 立ち去る二人の姿を睨みつけながら、海賊狩りは己の意識が遠のいていくのを感じた。




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