キドキラ

※Twitterで盛り上がった自傷癖キラーなネタです。独白調。
※キッドが死んだ後の話です。



 自分の血を見る事で満たされる様になったのは、いつからだったか。

 その記憶はとてもぼんやりとしていて、正直なところ自傷を始めたのが十代後半だった事しか思い出せない。
 理由があったような気もするが、忘れる位だから多分大した事じゃない。

 だが、一度自傷行為をやめた理由と時期は覚えている。

 あれは、おれがキッドの船に乗って二か月ほど経った頃だ。
 突然キッドに呼び出され、自分の腕を切るのはやめるように言われた。
 多少の不満はあったが、キッドが不快に思うなら仕方ないと、おれはその時から自傷行為をやめた。

 ただ、傷つける事への欲求が消えたわけではなかったため、それは他人を傷つける事で補おうとした。
 それを続けて気がついたのは、血と痛みが一緒でなければやはり満たされないということだった。
 そして、自分の血でなければやはり不十分だった。

 ――なら、他人に傷つけて貰えば良いんじゃないだろうか。

 そう思い至ったおれは、戦いの中で支障がでない程度にわざと攻撃を受けるようになった。
 自分でやるほど愉しいものではなかったが、それなりに満足はしていた。
 それに、攻撃が当たった事で油断するタイプの相手ならば隙ができて、逆に戦いやすくなった。

 ただそれもキッドにバレて、やめるように言われてしまったが。



 なぜキッドはおれが自分を傷つけるのが嫌だったのだろうか。
 振り返っても、日常行動や戦闘に支障が出てはいなかった。それなのに、何故。

「もう聞けないしなぁ……」
   縦にまっすぐ一本目。
 おれは左腕にナイフを滑らせてから、そう呟いた。
 傷口から広がる痛みと流れる血。やっぱり自分でやるのが一番愉しい。
 他人から受ける傷はそのほとんどが、傷口が粗かったり、やたらと痛かったり、おれの好みではなかった。

 ――これを禁止するなんて、キッドは何が気に食わなかったのか。

 もしかすると、キッドはおれがこの趣味にかかりきりになるのが面白くなかったのかもしれない。
 それならそうと言ってくれれば、頻度を減らしたりしたのに。素直じゃないな。
   二本目の傷。これは斜めの傷。
「お前より趣味を優先するわけ無いのに」
   三本目の傷。これも斜めの傷。
 戦いで負うものに比べればはるかに浅く、今では物足りない。ただ、やりすぎて生活に支障が出るのはよくない。

 考えようによっては、キッドはそれを心配して止めたのかもしれない。
 おれが思っていたよりも心配性だったのか。
   四本目の傷。これは一本目と同じ角度で。
「ずいぶんな暴君だったくせに」
   五本目の傷。四本目の上に小さく。
 キッドの遺品のナイフは、以前に使っていたものより滑らかに切れる。
 切れ味が良すぎて、痛みが物足りない。
   六本目の傷。四本目の下に小さく。
「これはお前の優しさか? キッド」
   七本目の傷。四本目の隣に同じ角度で。
 八本目の傷をつけ終え、おれは達成感と共に傷を眺めた。
   八本目の傷。弧を描いて。
「……上手く書けた」

 傷で書いたのはキッドの名前。

 これが消えたら……いや、消える前にまた上書きしよう。
 そうすれば、いつでもキッドと居られる。

「今更、ダメだなんて言わないよな」

 最初に始めた理由は全く思い出せないが、今回は絶対に忘れない。

「日付も書いておこうか、キッド」

 名前と命日を書くなんて、自分が墓標になったみたいだ。
 そんな風に考えつつ、おれは名前を覆いながら流れる血をぼんやりと眺めた。

 ――ああ、やっぱり赤は良いな。

 後になってズキズキと脈打つ痛みを与える赤に、おれの心は満たされていった。






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