遠い日の契約

※キッドが吸血鬼


 とある夜の事だ。突然、血の様な髪色をした男が窓からやって来た。
 なんとなく見たことがあるような気がするななどと考えていると、そいつは言った。

「やっと会えたな、キラー」
「……?」

 見覚えはあったが、どこで会ったのか思い出せない。
 おれの名前を知っているということは、絶対に会った事があるはずなのに。

「20年ぶりだ……覚えてないのも無理はねェか」
「20年前……?」

 つまり、おれが7歳の時だ。
 そのころ何かあっただろうかと思い返して、おれはようやく男の正体に思い至った。

 ーー20年前、おれは森の中で迷った末にある屋敷へとたどり着いた。
 その屋敷は森の奥に建っていて人の気配もしないというのに一切荒れていなかった。

『……誰かいますか?』

 おれは、扉を開けて一縷の望みをかけてそう問いかけた。
 すると、誰も居ないと思われた屋敷の中から不機嫌そうな声がした。

『誰だ……ああ、あの家のガキか』

 そう言ってどこからともなく現れたのが、現在目の前に居るこの男だ。
 突然現れた人物に驚いていたおれに、男は笑みを浮かべながら言った。

『吸血鬼の家に来るなんて、物好きだな』

 その時のおれは死を覚悟したが、意外にも何もしてこなかったし、それどころか夜になってから家の近くまで連れて行ってくれた。

 ただし、それには条件があったーー。


「20年後、おれの屋敷に来いって言ったよな」
「……忘れてた」
「そうだろうと思って迎えに来てやったぜ」

 律儀だなと思ったが、よく考えれば何か目的があったんだろうから、来ない方がおかしいような気もする。

「今からか?」
「当たり前だ。どれだけ待ったと思ってんだ」
「置き手紙くらいはしたいんだが」
「後で送れば良いだろ」

 そう言われてしまうと、これ以上反論できない。
 そもそも置き手紙をしたところで気づかれるのは数日後だろうし、それなら後から家族に手紙を送っても同じ事かもしれない。

「わかった、ならそれで良い」
「聞き分けが良いな?」
「吸血鬼に勝てる能力も無いからな」

 聖水すら持っていないおれに、対抗する術はない。

「よし、なら来い」
「……荷物くらいはまとめさせてくれ」
「いいぜ」

 その日からおれは吸血鬼ーーもといキッドの屋敷に住む事になった。




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