記憶喪失ネタ2

 キラーが記憶を無くしてしばらく経った。
 以前の事は忘れたままだったが、元々性格の相性は悪くなかったらしく、すぐに対外的には前と変わらない、相棒と呼べるような関係に戻っていた。
 ただ、それ以上の関係に戻るのはやっぱり記憶が戻らない限り難しいだろうと思っていた。
 そんなこんなで数ヶ月が経った頃、就寝前にベッドに腰掛けて酒を飲んでいるとキラーが部屋にやって来た。

「今、大丈夫か?」
「おう」

 そう言うと、キラーが部屋に入ってきた。が、そのまま扉の前に立って入口から動こうとしないキラーを不審に思い、どうした、と声をかけようとした時、ようやくキラーが話し出した。

「なぁ、キッド」
「ん?」
「どんな意味でとってくれても構わないんだが……」
「なんだ」

 緊張しながらキラーの次の言葉を待つ。一秒ちょっとの間だったが、とても長く感じられた。

「……おれはお前の事が好きみたいだ」

 告げられた言葉を理解した時、おれはすぐにでも抱きしめに行きたい衝動に駆られたが、さすがに勘違いだった場合にマズイ。
 警戒心を抱かれたりしたら立ち直れる気がしない。

「……どんな意味でもってのは……本当にどんな意味でも良いんだな?」

 おれがそう問うと、キラーは頷いた。
 
「ああ、友情でもいいし……愛情でもいい」
「そうか……」

 おれは、これはもう間違いないと確信した。

「キラー、とりあえずこっち来い」

 そう言って、腰掛けているベッドのフチを軽く叩くと、キラーはそれに従っておれの横に腰掛けた。落ち着かない様子のキラーに、おれは話し出した。

「キラー、お前は覚えて無いだろうが……」
「……」
「お前が記憶をなくす前、おれとお前は恋人同士だった。ただ……」

 そこで言いよどむと、キラーは不安げにこっちを見た。

「お前の記憶が戻んねェならそこまで戻れなくても仕方ねェなと諦めてた」

 おれがそう続けると、キラーはうつむいて言った。

「……すまない」
「かまわねェよ。結局こうなったんだしな」

 そう言って軽く引き寄せる。抵抗が無かったため、そのままキラーの頭からマスクを外した。

「そういや、これ着けてる理由は思い出したのか?」
「まだだな。残念ながら」
「そうか」

 そう返すと、おれは外したマスクを傍らに置き、キラーの唇に触れるだけのキスをした。
 すると、キラーが驚いたような反応をしたため、おれはすぐに顔を離した。

「わ、悪ィ……まだ早かったか?」
「違うんだ、キッド!」

 おれの心配とは裏腹に、キラーはやたら嬉しそうな様子でそう言っておれに抱きついてきた。

「思い出したんだ、今ので全部」

 おれの胸に顔を突っ伏しながら、キラーはやや涙交じりの声でそう呟いた。

「お、おう。そうか……! 良かったなァ」

 珍しく感情の起伏の激しいキラーに呆気に取られながら、おれはそう返した。もっとも、良かったというのは本音だったが。



 翌日、何故かキラーが記憶を取り戻した時の顛末が広がっていて、おれはそれから数日の間プリンスと呼ばれる羽目になった。





あれだよね、キスで治るとかめっちゃおとぎ話的だよね。
メカニズムとしては恋人だった時の記憶につながる行動があったからそれが大きなきっかけとなって戻ったとかそんな感じ。




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