キドキラ
(病んでるキラーともしかしたら病んでるかもしれないキッド)
血をみるのが好きになったのはいつからだろうか。
最初はたしか他愛ない出来事で、木のささくれに触れて出来た傷を処置した時に、何故かとてもその血が魅力的にみえたとか、そんな事だった。
血が好きなのかと思って傷つけたり殺したりしたが、一向にその時の高揚感は得られなかった。
それでもキッドを傷つける気にはなれなかったし、そもそもそんな事をすれば最悪の結果が目に見えていた。
ともかくそんな事を繰り返すうちにおれは殺戮武人と呼ばれ始めた。
そんな事を続けていたある日、キッドが「戦いになると性格変わるな」と言った。
おれはその言葉を聞いた瞬間頭の中で何かがプツンと切れたような気がした。
そして気がつくと、おれはキッドの肩にナイフを突き刺していた。
赤い色が視界に入り我に返った瞬間、おれは死を覚悟した。
いくら急所を外しているとはいえ、それは明らかに攻撃だったからだ。
そして案の定、呆然としていたおれはキッドに押し倒された。
キッドはそのまま自分の肩に刺さったナイフを引き抜くと、おれの肩のキッドに刺さっていたのと同じ位置に突き刺した。
痛みを感じたのと同時におれの目がとらえたのは、キッドの怒りと悲みの混じった顔だった。
「どういう、事だ……! キラー!」
「……」
なんと伝えるべきか分からなかった。
ありのままを伝えるなら、おれがずっとキッドの血に焦がれていた事を伝えるのが一番早い。
だが、それをキッドが理解してくれるかは甚だ疑問だった。
「なんとか言えよ……!」
キッドの肩から流れる血がおれの身体に落ちた。
「……おれは……好きなんだ」
キッドと、その身体に流れる血が。
そう答えたおれの感情は、キッドを悲しませた後悔と、その血を見られた歓びでゴチャゴチャになっていた。
「どうしたら良いのか、わからない」
好きだから守りたいのに好きだから傷つけたい。
その感情が毒のように心を蝕んで、おれの思考は死んでいたのかもしれない。
「もういっそ殺してくれ……」
一方的にそこまで言うと、黙って聞いていたキッドがおれの肩に刺さったナイフを抜いた。
そのままそれを心臓に突き立ててくれれば良かったのに、キッドはナイフを投げ捨ててしまった。
「絶対に……殺してやらねェ」
おれの耳元でそう言って、キッドはおれの肩を握り締めた。
傷に指が強く食い込んだため、痛みで意識が飛びかけた。
「っ……」
「お前はおれのモノだ……! 勝手に死ぬのも死にたがるのも赦さねェ……!」
その言葉に、おれは絶望感を憶えた。
こんなに醜い欲望を持ちながら、おれはまだこいつのそばに居なければならないらしい。
「また、同じこと……するかもしれない……」
同じように傷つけて、今度は取り返しのつかない事をしでかすかもしれない。
「そんな気が起きねェようにしてやるよ」
そう言うと、キッドは掴んでいた手を離して今度は傷口に舌をねじ込むようにしながら舐め始めた。
「っ、あ゛……!」
キッドは傷口を拡げる様に舌を動かしているようだった。
痛みと、キッドがおれの血を舐めている事への高揚感でおれの頭はゴチャゴチャになっていた。
しばらくして口を離すと、キッドが血にまみれた口を開いて言った。
「これだけやれば痕になるだろ」
朦朧とした意識のなか聞こえた言葉におれが頷くと、キッドは満足そうな笑みを浮かべた。
「次やった時も同じようにしてやるよ」
「……」
加虐性を絵にかいたようなキッドの表情におれは自分の中の被虐性がうずくのを感じた。
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マゾなキラーの出来上がりです。
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