キドキラ


 島に着いた初日の事だった。

 おれは海賊狩りらしき男に突然襲われ、逃げる隙を伺いながら応戦したのだがどうにも難しかった。
 しばらくして逃げられそうな見込みが生じた時、おれはいつの間にか背後に迫っていた別の仲間にタックルされ倒れこんだ。
 すると、その男に手際よく腕を武器ごと縄で後ろ手に縛られ、ついでに刃の部分をとられてしまった。

「よし……! コイツの船長に見つかるまえにトンズラするぞ!」

 そう言って、おれにタックルしてきたやたらガタイの良い男はおれを担ぎ上げ、すぐそこにあった建物に連れ込んだ。

 そこは、窓が小さく薄暗い場所だったが、とりあえず居住地として使える程度の家具や設備はあるようだった。
 どうやらここがこいつらの本拠地らしい。
 床へ下ろされる前に重りのついた足枷をつけられ、どうにも逃げられない状況になった。

 それにしても、わざわざおれを生け捕りにした意味が解らない。
 どっちにしろ賞金に差はないし、あれだけ上手く隙をつけるなら殺したほうが早いだろう。
 実際それ以外の事に関して言えばこの二人組は手際が良く、こんな状態だというのに感心すら覚えていた。

 そんなおれの疑問は、最初におれを襲った男の言葉で解決する。
 一度外に出て戻ってきたそいつは、おれを見張っていた男に言った。

「キッドのとこの下っ端に伝えるよう言ってきやした……焦ってましたよ」
「ヘヘヘ……そうか」
「コイツが捕まったと聞けば、船長が来るに違いねぇっす」

 どうやら話を聞いている限りおれをダシにしてキッドをおびき出し倒す作戦らしい。
 確かに、おれの賞金よりもキッドの賞金が高いから、普通に考えれば悪くない作戦だ。
 だが、キッドの場合はそうも言えない。

 ――来てはくれるだろうが、無駄だと思うな……。

 おれを人質に取ろうとしても、キッドはそういった交渉をする以前に外からおれを巻き込む勢いで攻撃するだろう。
 よって、かなり高い確率でおれは人質の役目をなさない。
 キッドが捕まらずおれが死ぬだけならそれで本望だから別に良いんだが、こいつらは良くないだろう。

 とかなんとか考えている間に、そいつらの話が別の事になっていた。

「そういやコイツ、どんな顔してんでしょうね」
「お前、そんなの外せばわかるじゃねェか」
「ああ、それもそうっすねェ……」

 ニヤニヤと笑いながら、部下らしき男がおれのマスクに手を伸ばす。
 おれが抵抗すると、もう一人の男がおれの上に乗り身体を押さえつけて言った。

「おれが押さえといてやるよ」

 その時、心臓が冷えるような嫌な感覚に陥り抵抗しようとしたが、それも体格差により無駄な努力に終わった。
 おれは思わず叫ぶ。

「嫌だ……! やめろ!」
「ヘヘ……そっちの意思なんて知ったこっちゃねェよ! さァて……」

 いよいよマスクを外されそうになったその時、部屋の中の金属が入口の方に引き寄せられた。

「何だ……?」

 二人が入口の方をみた次の瞬間、壁が崩れすさまじい音とともに鉄クズの塊が部屋に飛び込んだ。

「「ぎゃあああああ!!!」」

 二人の男がセットになって鉄クズが飛んできたのと反対側に飛んで行く。
 おれは上に乗っかっていた男がちょうど盾になって、少しかすり傷が付いたがほとんど被害がなかった。

 ――ナイスタイミングだな。

 壁が壊れたことにより立ち込める砂煙の中からキッドが現れ、おれを見つけると駆け寄ってきた。
 そこまで心配ならこのやりかたはおかしいんじゃないだろうか。

 傍に来たキッドがおれを抱き起しながら言った。

「キラー、生きてるか」
「ああ……」

 キッドに抱き起されて、おれは初めて自分が震えていることに気が付いた。
 元々震えていたのか、キッドが来て安心して震え始めたのかは分からないが、どうやら相当なトラウマに触れかけたらしい。

 キッドはおれを抱きしめながら、おれの後ろに目を向けた。

「アイツらか……」

 キッドがそう言うと、何かが飛んでいく音とドサッという音がした。
 おれが後ろを向こうとするのを制して、キッドが言う。

「大丈夫だ……あいつらはもう殺った」
「キッド……」
「何されそうになったのかはわかんねェが、安心しろよ」

 そう言いながら、キッドがおれの背中を優しくたたく。
 普段では考えられない行動で少し驚いたが、おれは身体の震えがおさまっていくのを感じた。

 だいぶ落ち着いてきたおれは、キッドに言った。

「とりあえず、もう帰りたい……」
「ああ……そうだな」

 おれの言葉にそう返すと、キッドは立ち上がっておれに手を差しだした。
 その手を掴み立ち上がろうとするも思っていたより脚に力が入らず、殆どキッドの力に頼る形になった。

「迷惑をかけてしまったな……すまない」

 おれのその言葉を受けてキッドが言った。

「迷惑じゃねェよ。それにおれの方こそ、遅れて無駄に嫌な思いさせちまった……悪かったな」

 キッドの謝罪に首を横に振って返すと、キッドはおれの頭を撫でた。

「とりあえず帰るぞ」
「ああ……」

 そう返事したもののまだ脚に力が入りきらず、おれは船が近くなるまでキッドのコートに掴まるようにしながら歩いた。


  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 船に帰ると、事情を聞いていた船医が一旦医務室に来いと言ってきたのだが、おれは明日で大丈夫だと答えてキッドについて行った。

 キッドの部屋に着くと、キッドにベッドへ座るよう促され、おれはベッドに座った。

「そこにいりゃ、疲れたらすぐに寝れるだろ」
「ああ、そうだな」

 事実かなり疲れていたおれがそう返すと、キッドがコートを脱いで隣に座りおれを抱きしめた。

「そういや、何があったか聞いてねェな……どうしたんだ?」
「一人がおれのマスクを外そうとして……もう片方の奴が押さえつけてきたんだ」

 その状況を思い出し、少し気が沈む。

 別に顔を見せること自体はそこまで嫌じゃない。
 キッドには毎日のように見せているし、顔が気になると言ってきた船員にも見せたことがある。

「それで……とても嫌な気分になった」

 多分、あの状況で押さえつけられた事が何かしらの琴線に触れたのだろう。

「そうか……辛かったな」

 キッドはそう言うと、おれを強く抱きしめてなだめるように背中を撫でた。
 そうされると何か涙が出てきて、おれはキッドにマスクを外してもらった。

「情けないな……こんな、ことで……」

 精神的に弱いつもりは無かったのだが、安心したからか涙が止めどなく溢れてきた。
 そんなおれを抱きしめたまま、キッドが言う。

「良いから泣けよ。それで楽になるなら、いくらでもこうしててやるから」
「ああ……ありがとう」

 キッドに抱きしめられる心地よさに身をゆだねながら泣いていると、気持ちがかなり落ち着いて、今度は疲れのせいか眠くなってきた。
 キッドにそう伝えると「ガキみてェだな」とからかわれたが、そんなやり取りでも心が安らいだ。

「まあいい、寝ろよ。おれがそばに居てやるから」

 キッドはそう言って、腕を添えたままおれの身体を横たえさせながら、おれの横に寝転がりそのままおれの身体を抱き寄せた。

「おやすみ、キラー」

 そう言った後、キッドはおれの額にやさしくキスをしてきた。
 嫌な目にはあったが、キッドにやさしくされた分だけプラスだなと思いながら、おれは「おやすみ」と返して目を閉じた。




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 リクエスト企画にてルミさんから頂いたリクエストでした!

『襲われた(キッドが助けて未遂)ショックで弱々しくなったキラーを、キッドが優しく慰める。 甘め時々シリアスで、ハッピーエンド』

 という内容でしたが、ご期待に添えていたでしょうか……。
 内容が微妙に違う所もありますが、精一杯書かせていただきました。

(キラーのトラウマの内容についてはご想像にお任せします)

 それではルミさん、リクエストありがとうございました!

良いなと思った方は是非→ 拍手

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