キドキラ


 その島の村には昔から伝わる風習があった。
 そしてちょうど今日、それにまつわる“月見”という催し物があるという。
 当然ながら、一般的に言う月見ではなくて特別な意味を持つものだ。

 ログがたまるまであと二日はあったし、風習などについて教えて貰える程度
には村の人間から受け入れられてはいたから、おれはそれを見に行くことに決
めた。

 だが、一人で行くのもさみしかったため、おれはキッドを誘ってみることに
した。

「どんな内容なんだよ」
「島にある池に映る月の様子で村の一年の吉凶を占う催しだと」
「占いか……」

 興味がなさげなキッドに、聞けば必ず食いつくであろう言葉を放った。

「興味がないなら他のやつを誘う。だから、断っても構わないぞ」
「……なら行く」

 案の定キッドは誘いに乗ってきた。
 普段は不便なキッドの嫉妬心だが、こういう時は役に立つ。

「そうか。じゃあ、六時に村の方へ出よう」
「ああ」




 六時ごろ、約束通りキッドと一緒に村に向かうと、儀式の服に袖を通した少
女がいた。
 緊張した表情を浮かべながら、祖母らしき老婆から何かを教わっている。

「全身真っ白じゃねェか」
「おそらく、神聖な儀式だからな」

 余所者のおれたちからすればただの催し物だ。
 しかし、村の人間にとっては今年一年がかかっている物で、しかも毎回かな
り高い的中率だというからその意味合いは大きいのだろう。

「派手なもんではねェんだろうな」
「そうだな、あの様子から派手な儀式は想像できない」

 人が集まって来ているし、商店も露店を作って他の村や街から来た相手に物
を売ったりと盛り上がってはいた。
 だが、儀式の中心となる少女の服装や池の周りの状況からして、儀式自体は
厳粛なものになるのは想像できる。

「儀式になったらお前は帰ってもいいぞ?」
「構わねェ。ここまで来たら最後まで居る」
「そうか」

 そんな会話をしながら池の水面に目をやると、既に月が映っていた。
 四角い池に周りの木と満月が映りこむ光景は、何となく絵画の様相を呈して
いる。

「きれいに映っているな」
「おう。見上げるより楽でいいな、これ」
「……」

 どうにも情緒に欠ける発言だったが、キッドらしいと言えばキッドらしい。

「どうした?」
「いや……あ、そろそろ始まるらしいぞ」

 特に始まりの合図があるわけでは無かったが、先ほどの少女が設けられた祭
壇に上がると周りが一瞬で静かになった。
 漂う緊張感に、幼い子供まで真剣な面持ちで水面の月を見つめていた。




「案外悪く無かったぜ」

 キッドが機嫌良さげにそう言った。

「そうみたいだな」
「にしても、あれだけ盛り上がってた割に本番はすぐ終わったたな」
「ああ」

 実際、儀式自体は五分程度で終わった。
 その土地独特の言葉で呪文らしきものを唱えたあと、突然強い風が吹き水面
が揺れた。
 すると、周りの人々、主に村人たちが歓声を上げた。
 どうやらいい結果だったらしい。

 そして、その後に始まった宴に少しの間だけ参加して、ついさっき会場から
離れたところだった。

「そういえば、キッド。さっき何を買ってたんだ?」
「これだ。こんど二人で飲む時使おうと思ってな」

 そう言ってキッドが紙袋から取り出したのは、白色の丸みを帯びた形のグラ
スが二つ入った箱だった。
 一つは滑らかな表面だが、もう一つは波打った様になっている。

「なるほど、さっきの儀式の空の月と池の月をイメージしてるんだな」
「だろうな。とりあえず、どっちのグラス使うか決めるから、後で部屋に来い
よ。酒も買っといたしな」

 キッドはそう言いながら箱を袋にしまった。

 今日はおれに付き合ってもらったのだし、晩酌くらいは付き合おう。
 そんな風に考えつつ、おれは頷きながら「楽しみだ」と返した。



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2周年企画のリクエストです!
【お月見】というお題でした。

船の上で月眺めたり、グラスに映った月がどうのこうのと話したりと脳内妄想が
迷走しましたが、最終的に旅の途中に寄った島のイベントに参加する二人の話に
なりました!

二人の価値観の違いなんかが結構出てしまいましたが、そんな事はお構いなしに
お互い一緒に居たいなと思ってるキドキラの様子が出てたらいいなと思います。

それでは名無しさんリクエストありがとうございました!

良いなと思った方は是非→ 拍手

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