キドキラ


 酒でも飲まないか、と誘われ、キラーはキッドの部屋に来ていた。
 キッドがキラーを酒に誘う場合、酒場は避けるが大抵は船内の、甲板や食堂で飲む事が多く、
それ以外の場所で飲んだことはほぼない。
 ましてや、キッドの部屋で飲むのは初めてだった。

 そういう訳で、部屋にイスが一つしかないため、二人はあまり大きくはない机を近寄せベッドに腰掛ける。
 普段キラーははマスクを着けたままで飲むが、飲みづらいのは否めない。
 だから、こんな時間にキッドの部屋を訪れる船員も居ないだろう、とキラーはマスクを外して傍らに置いた。
 それを見て、酒をグラスに注ぎながらキッドが言う。

「飲み過ぎんじゃねェぞ」
「お前が言うな」
「今日は面倒かけねェよ」

 二人で酒を飲むと、だいたいキラーが酔ったキッドの面倒を見る羽目になる。
 キラーが特別強いと言うよりは、二人きりだと何故かキッドの飲むペースが何時もより早くなるのだ。

「そうしてくれるなら嬉しいが……」

 期待はしていない様な口振りで言って、キラーはキッドが差し出した酒を受け取った。
 今日の場合は、酔っ払って潰れたキッドを部屋まで運ぶ手間がなくなるぶんキラーにとっては幾分マシなのだが。

 酒を飲み始めてしばらくは、今後の航路やら船員についてやら、何時も通りの会話が続いた。
 が、しばらくすると、キッドの話に珍しく下世話な内容が増えてきた。
 前に寄った島に居た娼婦がどうのとか、酒場で好みじゃない女に誘われたとか、
日常キラーには話さないような内容だ。
 というか、普段酔った時でも話さないから本当に珍しい事だった。
 キラーは「悪酔いしているんだろう」と酔ってボンヤリした頭で考えながら、適当な相槌を打っていた。

「良いよな?」
「? ああ」

 何が、とは訊かずににキラーがそう答えるとキッドがキラーの肩を掴んだ。
 状況が掴めずキラーは戸惑う。

「え?」
「何だよ? 身体なら飯の後に洗ったから大丈夫だろ」

 キッドがそういいながらキラーをベッドに押し倒す。

「!?」 

 一気に酔いが冷めたのと同時にキラーは、キッドの言動から何をするつもりなのか理解した。

「ちょっとまて、キッド!」
「あ?」
「本当に悪いんだが、話聞いてなかった」

 怒られるのを覚悟でキラーがそう言うと、キッドは怒るより先に、微妙な表情を浮かべながらこう訊いた。

「どこまで聞いてた?」
「……愚痴が始まったあたりまでは」
「その後は聞いてねェのか」
「聞いてたら応じない、こんな突然」

 キラーがそう答えると、キッドは明らかに項垂れた様子でつぶやいた。

「じゃあアレも聞いて無かったのかよ……」
「アレってどれだ」
「告白しただろ」

 言われて、キラーは朧気に思い出した。
 そう言えば何か「好きだ」とか言ってたが、あれは自分の事だったのか、と
キラーは一連の流れに納得した。
 確か「そうか」と答えた気がするな、とキラーは思い返した。

「何となく……うん、思い出した」
「そうか……で、返事は?」
「……すまない、すぐには無理だ」

 キラーだってキッドの事は好きだ。もちろんキッドが言うのと同じ意味で。
 だが、いまそう答えれば間違いなくこのまま事が進んでしまうかもしれない。
 酔った勢い任せというのは、キラーにとって不本意だった。

「今ので嫌いになったりしてねェよな?」
「それはないが、いますぐに返事するのは無理だ」
「そうか……」

 一層落ち込みながら、ようやくキッドがキラーの肩を押さえていた手を外した。

「ごめんな……キッド」
「おう……」

 明らかに意気消沈と言った様子のキッド。
 それもそのはず、想いが叶ったと思ったら勘違いだったのだから。
 キラーは、キッドに嘘をついているという罪悪感に襲われたが、それでもここで
気持ちを伝えるのは躊躇われた。

「明日までには考えておくから」
「……絶対返事しろよ、断ってもいいから」
「ああ」

 その後は、気まずい雰囲気のままお開きになった。



 そして翌日。
 早い方がいいだろうと思ったキラーは、朝食の後に、
頭が痛いと言って引きこもっているキッドの部屋を訪ねた。

「キッド、大丈夫か?」
「おぅ……飲みすぎた……」
「だろうな」

 散らばっている空瓶の数が、昨夜キラーが部屋を出た時よりも明らかに多かった。
 この調子では昨日の事を覚えているのかどうか怪しかったが、
返事すると言ったからには何かしら伝えなければなるまいと、キラーは話を切り出した。

「なぁ、キッド。昨日の話なんだが」
「昨日……?」

 やはり覚えていないようだったが、とりあえず一言伝えておく事にした。

「おれも好きだぞ。お前の事」
「おう……」

 頭をおさえながらそう返事をしてから、キッドは驚いた様子で、顔を赤くしてキラーの方を見た。

「え、お前、今のって」
「昨日お前が言ってたのと同じ意味だ。あと、ヤケ酒にしたって記憶無くなるまで飲むなよ」

 キラーは照れ隠しに諌めるようにそう言った後、キッドの部屋の扉を閉めた。

「おい、まて、戻ってこいキラー!」

 扉の中から自分を呼ぶキッドの声は聞こえないふりをして、キラーはその場から立ち去った。



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2周年企画のリクエストです!
【キッドの部屋で〇〇】というお題でした。

お互いまさか相手が自分を好きなわけないと思ってたら相思相愛ってパターンは
使い古されてるとはいえ大好きです。
お互い鈍いってわけじゃなく、隠してるから気づかなかったみたいなね。
で、そこから思い切るならキッドが行くかなと思ったのでこうなりました。

もう可愛いね、キドキラ可愛いね。

それではコウさんリクエストありがとうございました!

良いなと思った方は是非→ 拍手

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