002


(なぜかキラーが記憶喪失中)

 水底から一気に浮き上がるような感覚の中で、おれは目を覚ました。

 周りを見ると、おれの寝ていたベッドの横に、男が座っていた。

 ――こいつは、一体誰だったか。

 確か、親しい仲の人間だった……と思う。

「キラー……!」

 多分、おれの名前だろう。

「……」

 返事をしようと思って、困った。
 こいつの名前が分からない。
 もちろん素性も分からない。
 こいつについて何も知らない。

 ただ一つ分かるのは、おれにとって、かなり大事な人間だったことだけ。

「……キラー?」
「……すまない……何も、分からないんだ……」

 目に見えて、相手が落胆したのがわかった。

 おれは、こいつに何と言葉をかければ良いか、それすら分からなかった。

 ただ、何となく、おれは言った。

「……分からない……が、好きだ……と思う、お前のこと」

 何故か、すべて言い終えたとき、おれは涙を流していた。

「おい、なに泣いてんだよ……」
「すまない……分から、ないんだ……」

 何で、涙が出るのか。
 それは多分、こいつのことを忘れたから。



 しばらく泣いて、頭が痛くなったとき、おれは一つ思い出した。

「キッ……ド……?」

 そうだ、こいつの名前はキッドだ。

 あと少しで、もっと何か思い出せそうだ、と思ったとき、キッドは突然、おれを抱き締めてきた。

良いなと思った方は是非→ 拍手

メインへ戻る
TOPへ戻る


- 2 -


[*前] | [次#]




第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -