005


 ある日、キッド海賊団の船の上で珍事が起こった。
 なぜかローとその部下のペンギンとドレークが朝っぱらからやってきたのだ。



「突然だがキラー屋をチョココーティングすることにした」
「あ?」
「聞いてない、おれはなんにも聞いてない」
「ビターが好きなんだが、やはりミルクか?」

 ローの提案に、キッドが呆気にとられたり、ペンギンが船長の奇行に現実逃避したり、ドレークが妙な要求をしている中、当事者のキラーは逃げる準備をしていた。

「キラー屋、何してるんだ?」
「お前こそ何を手に持ってるんだ」
「テンパリング済みのチョコだ。30℃程度だから火傷はしない」

 キリッ、と音がしそうな言い方でローがそう言うと、現実に戻ってきたペンギンがローの頭部に蹴りを入れた。
 それでもチョコを落とさないあたりにローの本気を伺い知り、こりゃまずいな、とキッドは思った。

「おい、キラー。おれが引き止めておくから逃げろ」
「逃げるなら同行しよう」

 ドレークはそう言うと、ちゃっかりキラーのそばに行き、手を取った。

「いや、同行者は別に……」
「あんたじゃ信用ならないからおれが行く」
「小物に任せるわけにはいかん。貴様は自分の船長の尻拭いでもしていろ」

 ドレークはキラーの肩を抱きながらそう言うと、ペンギンから引き離した。

「だから同行者はいらないと……」
「そうは言ってもいつトラファルガーが追い付くかわからんだろう」
「……キッドが失敗すると言っているのか?」

 ドレークの言葉を聞いた瞬間、キラーの周りの空気が変わった。

「キッドがあの変態を制しきれないと言ってるのか?」
「変態って……いや、変態か……」

 状況的に反論出来ず、ペンギンは落ち込んだ。

「いくら変態とはいえ、あれでも実力は確かだ。負ける事はなくても、取り逃がす可能性はある」

 共闘した事があるならわかるだろう、とドレークに言われ、キラーは少し冷静さを取り戻した。

「そうだな……。わかった、二人とも、船に着くまで同行を頼む」
「ああ。それが一番だろう」
「その間に船長が正気取り戻せば良いけどな……」

 げんなりした様子のペンギンを尻目に、キッドとローはいまだ戦っていた。
 船までの道中、キラーはペンギンに訪ねた。

「……それで、アイツはどうしてああなった」
「分からないんだ……朝、目覚めるやいなや『キラー屋にチョコを……』と言って溶かし始めて……なにが何だか」
「元々よく分からない男だが、あそこまで変態じみた発言は確かに珍しい。原因が分かればいいのだが」

 普段から多少のセクハラ発言はするが、ここまでダイレクトなものは、ペンギンを含めて初めて聞いた。

「ペンギン、昨日アイツに何かなかったか?」
「昨日……そう言えば魔術師からもらったチョコ食ってたような」
「間違いなくそれだ」
「違いない」

 原因はわかった。
 だが、ドレークは何かひっかかった。

「しかし、それなら同じものをもらったが……」
「異常はないよなー」
「いや……少しおかしい。普段ならここまで積極的じゃないだろう」

 そう。
 普段のドレークなら、おそらくキッドと共にローを止めに入る。
 なのに、今日はキラーに着いて来ようとしたのだ。

「確かにそう言われれば、わざわざお前に会いに行く事は滅多にないな……」
「一体どういう……。そう言えば、キラーのとこのヤツは誰か食ったのか?」
「キッドが……おれも半分程もらった」

 そう言ったキラーにも、先ほど会ったキッドにも、二人はさほど異常を感じていなかった。

「一体なんなんだ……?」


「それはおれから説明しよう……」

 音もたてずに登場しながら、ホーキンスがそう言った。

「あれには、本人が抑制している気持ちを発散させる薬が入っていた……」
「つまり……?」
「残念ながら、あれがトラファルガーの」
「やめろぉぉ!」

 ペンギンが制止するように叫んだ。

「ふむ……。ならば、キラーとユースタスが無事な理由はなんだ」
「半分しか食べていないから……だろう」
「なるほど……キッドが醜態を晒さず済んだのはおれのおかげか」

 ホッとした様子でキラーが言うと、そのキッドがローを引っ張りながらやってきた。

「やったぜ、キラー」
「アレはどうした……?」
「途中で会った海鳴りに渡したぜ」

 そんな風に話していると、ローがうわごとのように呟いた。

「おれのチョコが……」
「船長……。なぁ、これどうやったら治るんだ?」
「それは……斜め45度で頭を叩けば治る」
「さっきのは角度が間違ってたのか……」
「こうだ」

 ホーキンスが能力でドレークを羽交い締めにしながら、渾身の力で頭を叩きながらこう言った。

「……」
「なぁ、そんな力で殴って大丈夫か? 動かないんだが」
「大丈夫だ……問題はない」

 心配するキラーに、ホーキンスは全く安心感を与えない返事をした。
 ペンギンはそんなやりとりをする二人を無視して、ローの頭をバシバシと数回叩いた。

「船長ー治ってくださいよー」
「ペンギン……何でおれを殴ってるんだ……?」
「あ! 治った! なんとなく口調が治った!」

 喜ぶペンギンと、状況が何もわからないロー。
 ドレークはまだ目覚めない。

「とりあえず……こいつはおれが連れて帰ろう……任せておけ」
「なんとなく不安だが構わねぇ……任せたぜ」
「キッド、いくら他人事だからといえ酷くないか?」
「いいだろ、別に」

 キラーを狙う奴には容赦しないといった様子のキッド。

「……ペンギン、ドレーク頼めないか」
「わかった。船長、一人で帰れますか?」
「当然だろ……馬鹿にするな」

 普段通りのロー。
 それを見て安心したペンギンは、キラーから頼まれた通りホーキンスからドレークを預かった。
 引き渡す時に渋っていたのを見るからに、ホーキンスが何かやらかそうとしていたのは間違いない。

「……何か恨みでもあんのか?」
「……? 何も無いが」
「なら何でこんな……」

 ペンギンの質問に、ホーキンスはこう答えた。

「それなら……恐竜の鱗が欲しかっただけだ」
「チョコは……?」
「敵の本性を探る意味だったが……あまり意味はなかったな」

 ただの悪ふざけかと思ったら、理由があったのか、とペンギンは少し感心した。

「おれは冗談で動いたりはしない……冗談は嫌いだからな」
「そうか」

 つまりドレークを殴ったのも本気の内らしいと解釈し、ペンギンは足早にその場を去ろうとしたのだが、身長差があるためそうもいかなかった。

「仕方ないな……おれはもう船に戻る」

 ホーキンスがそう言うと、すかさず傘を持った船員がやってきた。
 どこのお嬢様だ、などと思いながらホーキンスを見送ると、しばらく沈黙が続いた。

「……おれも戻る。ペンギン、ドレーク屋をおれの船まで運べ」
「あ、ハイ」

 正気に戻った船長なら大丈夫だろうとペンギンはその指示に従うことにした。
 3人を見送りながら、キッドがこう呟いた。

「そういや今日か……バレンタイン」
「昨日そんな話をしたじゃないか」
「ああ……そういやそうだな。色々あって忘れてた」

 ヤレヤレとため息をつくキッドに、キラーは思い出したようにこう言った。

「それでな、昨日お前にあげるチョコを買っておいたんだ」
「そうか」
「朝に渡そうと思っていたんだが……すまない」

 申し訳なさそうに言うキラーの頭を、キッドは軽く叩く様に撫でた。

「構わねェ。どうせなら一緒に食おうぜ」
「ああ、そう言うと思って多めに入ったやつを買っておいたんだ」

 嬉しそうにそう言うキラー。
 キッドは柄にもなく頬を染めると、照れ隠しに再度キラーの頭を撫でた。


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突発で書いたからえらいことになってるけどまあ気にしない気にしない。
キドキラ前提 ロ→キラ で ペン→キラ で ドレ→キラ
ちなみに ホ→ドレ だったりもする。


良いなと思った方は是非→ 拍手

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