キドキラ
嵐のさなか 風にあおられた船が大きく揺れ、その勢いでキッドが甲板から落下した。
すぐさま助けにいったのが功を奏したのか、息が続くうちにキッドを見付ける事が出来た。
しかし、キッドを抱えて海面まで上がった時には付近に船の姿は見えなかった。
一瞬戸惑ったが、幸いな事に目線の少し先に小さな島があり、嵐も泳げる程度にはおさまっていたため、おれはその島まで泳いだ。
島まで泳ぎ着いたおれは、キッドを浜に横たわらせ脈と呼吸を確認した。
「(脈も呼吸も整っているな……放っておいても大丈夫だろう)」
その後、だいぶ晴れてきた海を見ると、船は遠いが目視できる位置にあった。
船には望遠鏡が有るはずだから、何か目印を付けておけば発見してもらえる筈だ。
しかし、目印になるような旗は 当然ながら持っていなかったし、人が住んでいる気配も無いから借りる事も不可能だ。
もちろん、人が居たとしても無事に借りられる保証は無いが。
「……コレしかないな」
ここはどうやら夏島のようで暖かいし、キッドのコートを脱がせて使っても問題ないだろう。
それに日が射してきたから、濡れて重いコートを乾かすのにもちょうどいい。
塩まみれになりそうだが、それも後で洗うかはたき落とすかすればいい。
そんな風に自分の中で言い訳をしながら、未だ気絶しているキッドからコートをはぎ取り近くの木に引っかけた。
一仕事終えたあと、おれはコートを脱がされても起きないキッドが少し心配になった。
いい加減に起きてもらわないと、こちらの不安が募るばかりだ。
「キッド」
声を掛けながら身体を揺するがなかなか起きない。
しばらくそうしながら「やはり海水で濡れているのがよくないのだろうか」などと考えていると、唐突にキッドが喋った。
「あと五分……」
「ごふん?」
あまりに能天気な言葉で、一瞬何を言っているのか理解できなかった。
「まだ眠いって言ってんだよ……」
「……寝ぼけるな。起きろ」
この状態を寝ぼけると言うのかはよくわからないが、少しイラッとしたおれはキッドの腕を掴んで引き起こした。
「もう少し寝させろって……」
そう言いながらもようやく覚醒したキッドは、次に驚いた様子で周りを見回した。
「なんだここ」
「おそらくは無人島だ。確認はしていないが」
「なんでそんな所にいんだよ?」
「嵐でお前が海に落ちたからだ」
そこまで答えると色々と思い出したらしく、キッドは「悪い」と謝った。
「次から気をつけてくれれば良い」
「ああ、次はしっかりどっかに掴まっとくぜ」
いっそ船内に引きこもってくれた方が安心なのだが、どうやらそうするつもりはないらしい。
「で、船はどこだ?」
「あそこだ。ひとまず、目印にお前のコートをあの木に掛けた」
そう言って木を指差すと、キッドは微妙な表情を浮かべた。
「なんつーか……塩まみれになりそうだな」
「そうしたら後で洗ってやるから、今は我慢してくれ」
さっきの嵐が嘘のように晴れているし、おれ達が発見されるのにそう時間はかからないだろう。
それから少しの間ぼんやりしていたのだが、さっそく暇になったらしいキッドが言った。
「船に向かって手でも振らねェか?」
「おれは遠慮するが、良いんじゃないか? お前が振っていれば見付けた時安心するだろうし」
「ノリが悪ィな……」
文句を言いつつ立ち上がり、キッドは船に向けて手を振った。
キッドが手を振り続けて数分経った辺りでようやく近付いてきた船の上には、同じように手を振る仲間数人の姿があった。
それを見たキッドは、手を止めておれの方を見ながら言った。
「お前もあいつら見習えよ」
「そうだな……おれが船の方に居る事があれば見習おう」
おれがそう答えると、キッドは片頬に確信めいた笑みを浮かべながら「絶対に有り得ねェな」と言った。
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名無しさんより1周年企画のリクエストです!
【無人島】というキーワードは、
二人がたどり着いた場所として用いました。
とりあえず船から落ちたキッドを助けるキラーまじマーメイド
(男の場合はマーマンだった気もするけど気にしない)
最後の文はキッドからキラーへの信頼を表そうと思ってこうなりました。
『キラーがおれを助けにこない訳が無い』みたいな。
キドキラはやっぱり最初に信頼関係あってのCPだと思ってます。
それではリクエストありがとうございました!
良いなと思った方は是非→ 拍手
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