009
キッドの姿が見当たらないのに気付いたのは、夕食の1時間ほど前だった。
普段ならこの時間は、甲板か食堂にいる筈なのだが、今日はどっちにも居なかった。
どこを探そうかと悩んでいると、船員が話しかけて来た。
「キラーさん、頭どこに居るか知りませんか?」
「いや、おれも探してるところだ……」
「そうですかー。おれも色々探してるんですけど、船長室ってもう見てきました?」
気まずそうに頭を掻きながら船員がそう訊ねてきた。
前提として、キッドは船長室に船員が入るのをあまり好まない。
部屋にこもる時くらいは一人になりたいとかその程度の理由だろうが、この船員が船長室へ行くのをためらう原因としては十分だ。
「いや、まだだな……見てくる」
「どうもすいません。見つけたら教えてくださいね」
そう言って、船員は今度は別の場所を探しに行く事にしたらしく、おれから離れた。
おれはキッドの居場所および無事を確認しようと船長室に向かった。
これで部屋に居なかったら、それこそ海に落ちた可能性もある。
さすがにそんな事は無いだろうが、もしそうならどうしたものか、などと考えながらおれは船長室のドアを叩いた。
「キッド、居るか?」
「……」
部屋の向こうから返事は帰って来なかった。
おれは不在かどうか確認するためにドアの取っ手に力を加えたが、開かない。
「鍵が……」
キッドの部屋のドアは、外からカギがかかるタイプでは無いから、間違いなく中に誰かいることになる。
勝手に立てこもっている命知らずな船員が居るなんて事は無いだろうから、キッドは部屋の中に居るのだろう。
だが、こんな時間に寝ているなんて普段のキッドからは考えられない。
となると、この状況で返事が無いのはおかしい。
「キッド」
ドアを強めに叩きながらもう一度呼びかける。
だが、やはり返事は無かった。
「……」
困った。どうしたらいいのか。
本当にさっき考えた通りただ寝ているだけなら、ここでドアを破るのは得策ではない。
かといって鍵の特性上、外からあける事も出来ない。
でも、もし中で倒れていたらと考えると悠長な事は言っていられない。
どうするのが正しいのか、キッドの意思を確認できないのがこうも困るとは思っていなかった。
結局どうしたらいいか判断できずにドアの前で立ち尽くしていると、後ろから声がした。
「……おい」
「!」
不意の呼びかけに振り向くと、そこにはキッドが立っていた。
手には余り紙と紐で包まれた箱を持っている。
「え、何でお前がここに……? 中に居るんじゃないのか……?」
「何言ってんだ、おれはここに居るぜ?」
「だって鍵が……」
言いながらドアの方を見ると、そこには小ぶりなホールケーキを持った船員が立っていた。
ケーキの上には『HAPPY BIRTH DAY!』と書かれた小さなカードが立ててある。
「誕生日……あ」
「そういうことだ。ほら」
キッドはそう言って、手に持った箱をおれに手渡した。
先ほどはよくわからなかったが、おそらくコレはプレゼントボックスのつもりなのだろう。
「ありがとう……。それにしても、何故こんな……」
「せっかくの日だぜ? 普通に祝ってもつまんねェだろ」
「あのなキッド、おれは……」
本気で心配したんだぞ、と言いかけてやっぱりやめた。
何はともあれ、キッドなりに趣向を凝らそうと頑張った結果なのだろうから、いま説教するのは無粋だ。
「なんだよ?」
「いや、何でもない。ただ、次は普通に頼む」
「まあ次は次だ。とりあえず食堂行こうぜ、アイツらが夕飯待ってるからよ」
「ああ」
また来年なにかやらかしそうな様子のキッドにあきれながらも、おれはその後ろからついて行った。
1時間ぶりに戻った食堂には、いつもよりすこし奮発したであろう夕食とプレゼントを持った船員が待っているのを見て、おれはなんだか泣きたくなった。
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