キドキラ


 キッドは外につながる扉の後ろで冷たい風から身を守りつつ、甲板に広がる白を眺めて呟いた。

「これが噂に聞く雪ってやつか……寒ィな」

 キッドが扉を閉めようとすると、扉の前にいたキラーがそれを妨害しながら言った。

「昨日の夜に降ってたやつも雪だぞ、一応言っておくが。それより早く出てこい」
「アレがこんなになるのかよ……マジで寒ィ」

 毛皮のコートなど着ている癖に、キッドは扉の裏でバケツを持ったまま震えていた。
 バケツは、船に積もった雪を海に落とす為に各自持っていたが、キッドが持っているそれは今のところ全く役に立っていなかった。

「キッド……寒いのはわかったから、いい加減に雪を落とすの手伝ってくれ」

 キラーは、呆れたようにそう言いながら、扉の裏に居るキッドを引っ張り出そうとした。

 このまま暖かくなれば、雪がすべて溶けて流れていくかもしれないが、生憎キッド海賊団は冬島に停泊中である。
 そのため、雪の降らない昼間のうちに雪を落としておかなければ、重みで沈む可能性がある……と、航海士が言っていたので、今は必死に船員達が交代で雪掻きをしているのだ。

「外出る気にならねェ……」
「それなら意地を張らずに防寒具を着ろ」

 そう言ったキラーも防寒具で身を固めていた。 当然、他の船員も、各々購入してきた物で寒さから身を守っている。
 最初にそれらを買いに行った時の地獄はもう御免被りたいのだ。

 だがキッドは今まで、イケてないだの戦いづらいだのといった言い訳で、船員が買ってきた防寒具を着ていなかった。

「おう……もう耐えられねェ……着てくるぜ」
「ちゃんと部屋に引きこもらず、帰ってくるんだぞ」



 十数分後、やたらと防寒具を着こんだキッドが出て来た。
 見栄えを気にしている様子が一切ないその姿に、キラーはいっそ潔さを感じた。

「ずいぶんと重ねたんだな」
「寒さで死にたくはねェんだよ」

 キッドがのそのそと扉の外まで出て来ると、キラーはキッドのバケツを拾い上げた。

「とにかく夜に積もった分を落とすまでは休めないからな」
「おう」
「あと三日の辛抱だから頑張ってくれ」

 キラーの言葉に頷いた後、キッドは思いついたようにこう言った。

「昨日の夜 寒かったよな……」
「そうだな……あとで布団を買いに行くか?」
「いや、布団はいらねェからお前が部屋に来いよ」
「部屋……?」

 キッドの言葉に、キラーは少しとまどった。
 意図を理解するのに数秒かかったのだ。

「……お前の頑張り次第だな。考えておく」

 キラーはそう言ってバケツをキッドに手渡すと、頑張れ、と一声かけて雪を落としに戻った。
 その言葉に、キッドはバケツを握りしめ、船員を押しのける勢いで船の上にたまった雪を落としはじめた。

 しばらくして実際に押しのけられた船員は、遠巻きにキッドを眺めながら呟いた。 

「煩悩ってすごいな……」
「だな、船員落としそうな勢いだ……そろそろ キラー呼ぶか?」
「そうだな」

 その後 キッドの暴走は、船員に呼ばれたキラーが止めに行くまでの数分間続いたのだった。



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名無しさんより1周年企画のリクエストです!

【初雪】だったので現パロにしようかなとも思ったのですが、
冬島に行った時のグダグダな感じを書きたくなって海賊設定の方にしました。
初めて見た雪=初雪……みたいな。

ちなみに
この日の夜は、冬島なのに雪を溶かす様な熱い夜を過ごしました。
実際は溶けずにキラーが雪掻き戦線離脱したんですがね。

それではリクエストありがとうございました!

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