005
携帯の着信音は何か。
ある日の昼休み、友人3人で窓際に机を集めて昼食を食べている最中、ローがそんな話題を友人たちに振った。
「おれは適当に流行ってる曲にしてるんだが……キラー屋は何?」
「おれか? おれは……その」
いいづらそうにキラーが口ごもる。
まさか、オタク趣味な曲にでも設定してるのか、などとローが考えた時、キラーがおずおずと答えた。
「……初期設定のままだ」
「ああ……なんだ。それならペンギンも同じだから気にすんな」
一番聞こえやすいから、という理由で、ペンギンは初期のままにしていた。
もちろんそれとは180度違う理由だろうが、ローはあえてそこに触れることはしなかった。
「それで、ユースタス屋は?」
「洋楽系。ところでキラー、なんで今日の弁当、卵焼き入ってねェんだ?」
キッドの質問に、キラーは申し訳なさそうにしながら答えた。
「ああ、すまない。卵を切らしてたんだが、買いに行く時間が無くて」
昨日キラーが忙しかったのを知っていたキッドは、なら構わねェ、と言って、また弁当を食べ始めた。
途切れた会話を引き戻そうと、ローがキラーに話しかける。
「キラー屋は何か興味ある曲とか無いのか?」
「特には……ただ、もう少しうるさくない音が良いな。今のは少し耳障りなんだ」
だいたいの携帯電話で初期設定になっている、あの電子音。
キラーはどうもあれが好きではなかった。
それを聞いて、黙々と弁当を食べていたキッドが顔を上げて言った。
「なら最初に入ってるやつから選べば良いじゃねェか。変えてやろうか?」
「ん? 良くわからないが、頼む」
そう言って、キラーがキッドに携帯を渡した。
キッドは箸を置いて受け取ると、着メロデータ画面を出した。
「じゃあそうだな……これとかどうだ?」
周りの迷惑にならないよう音量を調節して、自分たちにだけ聞こえる程度まで小さくすると、ボタンを押して、着メロを流した。
キラーはそれを聴いて頷きながら言った。
「うん、良いなコレ」
「じゃあこれにしとくか?」
「ああ、頼む」
キラーの返事を聴いて、キッドは少し携帯をいじった後、キラーに返した。
「これで出来たと思うぜ」
「ありがとう」
変わったかどうかよくわかっていないキラーに、今まで取り残されていたローが言った。
「じゃあおれが掛けてみようか?」
「そうだな、そうしてくれ」
ローが自分の携帯を取り出して、キラーの携帯に電話を掛けた。
「! 本当に変わってる……!」
驚いた様子のキラーに、キッドがあきれた様子で言った。
「当たり前だろ」
「まあまあ、キラー屋だから仕方ないって」
苦笑どころか方を微妙に震わせながら笑いをこらえるロー。
キラーは携帯を持ちあげて、また驚いたようにこう言った。
「振動も何か違うぞ!?」
「……お前何もしらねェんだな、ホントに……まあ良いけど」
キッドが軽いため息とともに呟いた。
もちろん、機械音痴なキラーがバイブの着メロ連動機能など知るわけもないのは判り切っていた。
だが、キッドは改めてその性質を知らしめられた感覚に陥り、ただ暖かい目でキラーを見ているしかなかったのだ。
「まあ何というか……よかったな、キラー屋」
「ああ」
ローの言葉に頷きながら、キラーは携帯をいそいそと、大事な物を扱うようにカバンにしまった。
そして、キラーは嬉しそうに笑顔を浮かべながら、キッドに再度礼を言った。
「キッド、ありがとう」
礼を言われたキッドは、キラーの嬉しそうな声と表情によって、自分の鼓動が早まったのを感じていた。
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