キドキラ


《誤解》



「本当に、おれは誰とも会ってない」

 二回目にそう言った時、突然キッドがおれの腕を強く掴んできた。
 力を入れ過ぎた指先が食い込んで、痛い。

「見たやつがいるんだよ! お前が船員でもねェやつと話してたのを!」

 苛立っているのが良くわかったが、ここでおれまでキレたら誤解を解くどころの話ではない。
 まずは落ち着かせなければ。

「……じゃあ訊くが、誰と会ってたって言うんだ」

 この時点で、心当たりは有った。おそらくは、散歩中に道を訊かれた時のことだろう。
 もちろん上陸したばかりのおれだって詳しくは知らなかったが、相手の行き先が道中で見かけた場所だったから、そこまで案内した。
 それだけの付き合いだから、当然おれだって相手の名前は知らない。

 つまり、人づてに聞いただけのキッドが、相手の素性など答えられるはずがない。
 案の定、キッドは言葉に詰まった様子だった。

「……」

 的外れな怒りがおさまったのか、腕をつかむ力が弱くなった。

「とりあえず、放してくれないか?」

 おれがそう言うと、キッドの手が腕から離れ解放された。
 あざになりそうだ、などと考えていると、キッドがまた質問をぶつけて来た。

「何話してたんだ?」
「……道を訊かれただけだ」
「本当にそれだけか?」

 いい加減にしてほしい、と思った。
 もちろん、悪気が無いのはわかっている。
 とはいっても、ここまで疑われるとさすがに傷つく。

「本当にそれだけだ。そもそもお前は何だと思ってるんだ?」
「……この島で親しくなったヤツとかじゃねェのか」

 それは、浮気をしたと思っている、ってことか。
 一体どうして、そういう発想になるんだ。おれはそんなに不誠実なヤツに見えるのか。

 おれは、苛立ちを隠さずに言った。

「そんなんじゃない。そもそも、お前以上に親しくしているやつなんて居ない」

 何で、こういった事については信じてくれないんだろうか。
 仲間としてなら、一番信頼されている自信があるのに。

 おれの苛立ちが十分すぎるほど伝わったのか、キッドが気まずそうに言った。

「……悪かった」
「……」
「疑っちまって、悪かった」

 そう言うと、キッドはおれの身体を引き寄せ、抱きしめてきた。

「キラー……もうこんな事訊かねェから」

 許せ、と言いたいらしい。

「……」

 おれは、キッドに対して「許さない」などと言うつもりは無かった。
 ただ、こいつの気分次第で落ち込んだり、怒ったりさせられたのは少し癪に障った。

 それに、こうして抱きしめられているのは嬉しい。
 だから、今は抱きしめ返すだけにして、しばらく何も言わないでおくことにした。



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ね太郎様への5000HIT企画作品です。

『嫉妬したキッドに振り回されるキラー』で微甘というリクエストを頂いたので、
『精神的に』振り回されているキラーを書かせていただきました。


最初、街でキラーと遊んでたニャンコにまで嫉妬しだして、
ニャンコを取り上げられたキラーにキレられるキッド、
なんて話も妄想していたのですが、
微甘と言うよりギャグになってしまったので、軌道修正しました。

よろしければ貰ってやってください。
喜んでもらえたら嬉しいです!

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