003


前に言ってたペンキラ晒します。
(一発書きなんで、変なところがあっても許して下さい)





 名前は聞けなかったから、かぶっていた帽子にあった文字から『ペンギン』をとりあえず彼の名前としておくことにした。

 そういえば、ペンギンはおれの名前を知っているんだろうか。






 ある日のこと、船長がこんなことを言っていた。

「殺戮武人……か。すごい通り名だな」
「船長も相当なもんですよ」

 船長の通り名は、死の外科医。
 実際、医者なのだが、別に腕が悪くて人を死なせまくったとか、そういうわけではない。
 単にじゃまな海賊やら海兵を殺していたら、呼ばれるようになったのだ。

「ただの勘だけど、多分おれの好みだな、こいつの顔」
「勘……」
「もっと言うなら、このマスクから推測できる顔の骨格が、おれの好み」

 あんたはどこぞの頭蓋骨マニアか、と言いたくなるのをこらえて、訊いた。

「それで、所属は?」
「キッド海賊団の戦闘員。キラー屋って言うらしい」

 いつか会うのが楽しみだ、と船長はニヤリと微笑んだ。






 初めて見掛けたのは、空島出身の怪僧と小競り合いをしていたとき。

 死の外科医の船員らしく、ペンギンはそいつの傍に立っていた。

 二回目は、オークション会場。
 そこで見かけたとき、無意識に目線がペンギンに向いていて、そこで初めて、自分が彼に興味を持っていると自覚した。






 初対面は、アイツが羽を背中に付けた大男と戦っていたときだった。
 あっちはこちらになど興味はなさそうだったが、船長は興味を持って戦いを見ていた。

「なぁ、もしキラー屋が殺られたら、持ち帰りたい」
「原形をとどめているなら、良いんじゃないですか」
「怖いこというなよ!」

 ベポがおれにそう言うと、船長が言った。

「大丈夫だ、修復するから」
「キャプテン、そういう事じゃないよ!」
「まあ、死んだら……だから船長のことは気にするなよ、ベポ」

 ただ、できればそうなってほしくないな、と何故か思った。

 その後も観戦していると、戦っていた二人を、横からやってきた男が仲裁した。

 その時、船長が小さく舌打ちをした。

「残念だ……」

 おれは、敢えて聞こえないふりをして、腕を組んだままつっ立っていた。

 その時、間違いなく気のせいだろうが、こちらを見ていた殺戮武人と目が合った気がした。


 その後、オークション会場でも、アイツに出くわした。

 先ほどは居なかった仲間と一緒に居たため、船長は、また関わりをもつチャンスを逃した、と残念そうだった。

 ただなぜか、アイツは興味ありげにこちらを見ていたようだったが。






 騒ぎの翌日、おれ達はまだ諸島にいた。

 残念ながら、まだコーティングは済んで居なかったし、それに、数日後、諸島で例の戦争の中継をやるらしい、という情報を、船員が聞きつけたからだ。

「キッド、少し出かけてくる」
「ああ、気を付けろよ」

 会って、自分の感情の理由を確かめたかった。
 多分、彼らもまだ諸島に居るはずだ。

 とはいえどう探そうか、などと考えていたら、突然後ろから声をかけられた。

「キラー屋、今暇?」
「トラファルガー……」

 探しているのは、こっちじゃないんだけどな。

「船員はどうしたんだ?」
「船に居るぞ、コーティングは済んでるから」

 来てみるか? と訊かれ、おれは少し考えてから答えた。

「行ってみる」
「そうか……じゃあおいで」






 殺戮武人を探しに出ていった船長は、思っていたよりも早く帰ってきた。

 連れて来られた殺戮武人は、おれを見るなり、こう呟いた。

「……ペンギン」
「……?」

 確かに、帽子の文字はそう読むのだが、いきなりなんだ。
 まさか、名前だと思っているのか。

「……おれの名前はペンギンじゃ……」
「せっかくだから、キラー屋をおれの部屋まで案内してやってくれよ……な、『ペンギン』」
「……はい」

 名前を訂正する必要はないってことか。
 まあそうだろう、おれはただの船員でいいのだから。

「こっちだ、殺戮武人」
「……その呼び方は、嫌だ」

 なるほど、ソレもそうだろう。

「じゃあ、キラー。船長室まで案内するから着いてこい」

 おれの言葉に、素直にうなずき、歩きだしたおれに付いてきた。






 名前を呼んでもらえるだけでこんなに嬉しいなんて、思ってもいなかった。

 だから、ペンギンの本名も知りたくなったが、船長であるトラファルガーが止めたのだから、訊いても無駄だろう、と考え直した。

「……ペンギンは、やっぱり戦闘員なのか?」
「ああ」

 素っ気ない返事で、少し悲しくなる。
 こんな気持ちになると言うことは、やっぱり、ペンギンのことが気になっているのだろうか。

「……キラー、オークション会場で見ていたのは誰だったんだ?」
「……ペンギン……と、白くま」
「……何でおれを? ベポはともかく」

 何でと訊かれ、困ってしまった。
 この場合、どう答えれば良いのだろう。

「……なんとなくだ」
「そうか。……ここが船長室だから、船長が来るまで待ってろ」

 そう言って、ペンギンが立ち去ろうとした。

「待ってくれ……!」
「?」
「あ、その……トラファルガーが来るまで、なにか話さないか……? 退屈だから」

 思わず声をかけてしまったが、何か話題があるわけでもなく、この後どうすればいいのか分からなかった。






 引き止められて、話をしないか、と言われたが、正直なにを話すべきか悩んでいた。

 自身はもちろん、恐らくはこいつも相手の情報を知らない。
 こいつに至っては、こちらの本当の名前すら知らない。

 困った末、おれはこう切り出した。

「キラー。お前は何でマスクを着けてるんだ?」
「これは……顔に傷が有るから、それで他人を不快にさせないようにだ」
「傷?」
「ああ、熊にやられた」

 熊に……か。
 昔、似たような経緯で顔に傷を負った奴がいたな。

 そこまで考えたとき、おれは、ある考えに至った。
 これが合っていたなら、キラーがおれを気にする意味もわかる。

「キラー、お前……」

 おれが言い掛けたとき、ガチャと扉が開いて、船長が入ってきた。






 ペンギンが何か言い掛けたとき、トラファルガーが入って来た。

「ああ、何か話してたか?」
「ええ……まあ」
「重要なことか?」
「もしかすると、重要な話かも知れません」

 そう答えたペンギンに、おれは首を傾げた。
 今のところ、そんなに重要な話には思えないのだが。

「じゃあ、後でまた時間とるから」
「……はい」

 ペンギンは、一応納得したように返答すると、部屋の外に出て行ってしまった。

「キラー屋。時間がないから単刀直入に言うぞ……マスク外して見せてくれないか?」

 本当に、単刀直入だ。

「……おれは構わないが、後から文句を言うなよ」

 前置きをして、おれはマスクを外した。






 マスクを外したキラー屋の顔は、髪で隠してあったが、よく見れば、大抵の人間は顔をしかめるであろう損傷を受けていた。
 だが、左側は無傷で、その顔は、やっぱりおれの好みだった。

 ただ、誰かに似ているようだった。

「右側、なにがあったんだ?」
「森に熊がいて……そいつにやられた」
「何で森に行ったんだ?」
「……兄さんに誘われて」
「へぇ……災難だったな」

 確か似たような話を、前にも聞いたな。
 話していたのは、今外に立っているあいつだった。

「兄さんって、どんな奴?」
「……わからない、おれが八つになる頃には、遠いところに養子に出されてしまったし、昔の記憶が曖昧だから……。でも、髪の色は銀だったと思う」

 そこまで聞いて、おれは確信した。






 間違いない、と思った。

 あいつは間違いなく、おれの弟だ。

 弟が顔の右側に大怪我をして、兄は養子に出された……なんて家はそうそう無いはずだ。

 おれは、今すぐにでも部屋に入って、確かめたかった。
 顔は変わっているだろうが、あの傷は覚えている。いや、忘れられない。

『じゃあ、キラー屋……あとはペンギンと好きなように話をしなよ』

 しばらく何やら話したあと、船長はそう言って部屋から出てきた。

「もういいぞ。話あるなら入りな」
「はい、そうします」

 そう言って部屋に入ると、キラーはまだマスクを外していた。

「着けないのか?」
「トラファルガーが、外しておけ、と……」

 見ると、顔の右側には包帯が巻いてあった。
 恐らくは、船長なりの気遣いだろう。もちろん、おれへではなく、キラーへの。

「そうか」

 答えながら、帽子を脱ぐ。

「……髪の色、銀色なんて珍しいな」
「ああ、よく言われる」

 驚いた様子のキラーにそう相づちを打つと、おれは話しを切り出した。

「……おれには、弟が居たんだ」
「……」
「おれが養子に出されて、離れてしまったから、その後どうしたかは知らないが」

「……本当の話か?」
「ああ、本当だ。その証拠に、弟の名前を教えるぞ」

 これで、キラーがそうなのかわかる筈だ。

「弟の名前は……」






 ペンギンが言った名前は、おれ自身も忘れそうになっていた名前だった。
 でも、確かに昔、おれはそう呼ばれていた。

「……兄さん……なのか?」
「多分な」

 ようやくわかった。
 おれが、ずっと気になっていた、その理由が。

 おれは、無意識のうちに、彼が兄だと気付いていたんだ。

「じゃあ、名前を……お前の名前を教えてくれ」

 生憎忘れてしまったが、聞いたら、絶対に思い出す。

 おれの言葉に頷くと、ペンギンは言った。

「おれの名前は……」






「やっぱり、本物だ……」

 キラーがそう呟くと、ペンギンは近寄って言った。

「あの傷は……どうなったんだ?」
「傷は……もう大丈夫だ、痛くはないから」
「……包帯、外しても構わないか?」

 ペンギンがそう訊ねると、キラーは少しためらってから頷いた。
 それを受け、ペンギンが包帯を外すと、彼にとっては懐かしい傷がそこに在った。

「……まだ、こんなに……、っ……ごめんな」
「いいんだ、兄さんは悪くないから……」

 それは、ある意味真実であり、ある意味では、嘘でもあった。

「でも、おれが森に誘わなかったら……こんなことには……」

 そう言って、キラーの頭を抱きしめると、ペンギンは涙を流した。
 キラーは、そんな彼の背中に手を回すと、慰めるように軽く撫でた。






「じゃあな……ペンギン」
「ああ」

 キラーが船から出るときの見送りは、ペンギンに任せられた。

「……キラー、元気でな」
「ああ、お前も……元気でいてくれ」

 少し寂しそうなキラーの様子に、ペンギンは言い掛けた言葉を必死で飲み込んで、こう言った。

「また会おう」
「……お互い、まだ生きていたら、その時はまた」

 それじゃあな、と言って、キラーは船から軽やかに飛び降りた。

「……いつの間にあんなに強くなったんだかな……」

 ペンギンは、昔の弱気な弟の姿を思いだしながら、ポツリとそう呟いた。

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