005
「そういやバレンタインなんも貰ってなかったな」
退社間際、キラーのところに押しかけて来たローが思い出したように言った。
キラーはローの方は向かずに書類をカバンに詰めながら相槌を打った。
「そうだな。というか何でおれがお前にやらなきゃならないんだ」
「え、キラー屋なにそれ酷い」
「黙れストーカー」
そう言ってローの頭を殴ったのは、キッドだった。
「ったく……性懲りもねェ……」
そういって、キッドはしゃがみ込んでいたローの襟首をつかみ、引き起こした。
「いいか、トラファルガー。仕事以外でこいつには近づくんじゃ」
「あ、そういやユースタス屋。キラー屋とドレーク屋が出来てたって知ってたか?」
ローの言葉に、キッドの周りの空気が固まった。
「……は?」
「ああ、知らなかったか」
そう言ってローがにやりと笑う。
キラーはといえば、まさにこの後ドレークとの約束があったため、カバンを持って部屋から出ようとした。
「待て、キラー」
「……」
無視して部屋から出られるギリギリの位置でキッドに呼び止められ、キラーは悩んだ。
無視するか、無視せず戻るか。
歩きながら考えた末、キラーはこれ以上この場で追及されるのもいやだからという理由で聞こえなかったフリをすることにした。
キッドもキラーがだいぶ離れてしまったため、詳細は手近にいるローに訊く事にした。
「ドレーク、遅れてすまない」
「いや、大して待っていないから大丈夫だ。しかしどうした? 何か疲れているようだが」
「ローのせいで、ドレークと付き合ってる事がキッドにバレた」
困ったように言うキラーとは対照的に、ドレークは落ち着いた様子でこう訊いた。
「それは大変だな。今度会ったらどう説明するんだ?」
「……友人だと言っておく」
「友人か……まあ、現段階ではそうだろうな」
二人の生来の奥手さ故か、二人は未だに恋人らしい事をした事がない。
唯一あるとすれば、バレンタインにキラーがチョコレートをドレーク宛に作った事くらいだ。
「なんだか知らないが、こう言うことに五月蠅いんだ。キッドは」
「まあ多分心配なんだろう……色々と」
そう言ったあと、ドレークがキラーにこう言った。
「そうだ、バレンタインのお返しを明後日一緒に選びに行かないか? 好きな物を買ってあげよう」
「良いのか?」
「ああ……とはいえ、あまり高いものは買えないがな」
ドレークが苦笑すると、キラーは、それでもかまわない、と嬉しそうに答えた。
「そうか、それならよかった。じゃあ、夕食を食べに行こうか」
ドレークの言葉にキラーは頷いて、手はつなぐことなくその隣を歩いた。
傍から見れば、ただの先輩後輩にしか見えない光景だったが、二人にとっては間違いなくデートだった。
キラーが家に帰ると、玄関口にキッドが居た。
「……ただいま」
「おう。……だいたいの事はローから聞いた」
キッドの言葉に、キラーは嫌な予感しかしなかったが、キッドが次に発した言葉はそれに反するものだった。
「……お前が幸せならそれで良いんだけどな、くれぐれも先走って色々ヤったりすんじゃねェぞ」
「うん、そうだな。おれもそう思う」
「まあ、ドレークなら大丈夫だとは思うがな……あいつもお前に負けず劣らず奥手なやつだから」
キッドは、でも気をつけろよ、とつけたすと、キラーの家から少し離れた自宅の方へ歩いていった。
キラーはと言えば、キッドが意外に穏便に取り合ってくれた事にホッとしていた。
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