crazy
「ずっと好きだったんだ」
震える声でキラーからそう告げられた。
言葉を返そうにも口を覆う布がそれを阻む。
「離れるだなんて嫌だ」
キラーが言っているのは、おれが地元から離れようとしてる事についてだ。
寂しいと思う気持ちはわかるが、だからって睡眠薬盛って拘束っておかしいだろ。
とはいえ、色々と曖昧に伝えたおれも悪いんだが。
「キッドまで居なくなったら……おれは……っ」
キラーはそう言って泣き出してしまった。
手が自由ならすぐにでも抱きしめたいのに、背中で手を縛る布が邪魔をした。
「キッド……」
キラーが縋るように抱きついてくる。
「行かないでくれ……」
「……」
ここまでおれに執心する理由は判ってる。
これは、高校生の時にこいつの親が死んだのがきっかけだ。
とはいえ一人暮らしになったわけじゃなく、キラーの伯父であるヒートが引き取ることで落ち着いた。
キラー曰くすごくいい人で、こいつを大学まで行かせている。
その辺の理由は前に聞いたことがあって、その件でおれもそいつとは仲良くしてる。
ただそれでも、今となっては唯一昔から一緒にいる相手だからなのか、キラーはおれに執着している。
「何で今更なんだ……?」
「……」
質問するなら口の布とれよ、とおれは思った。
そりゃあ、大学まで同じところに行ったのに就職は向こうで、とかキラーからすれば悲しいんだろうってのはわかる。
だがこれじゃ弁解もできねェだろ。
おれの返答は聞かないまま、キラーは続けて言った。
「……キッド、おれも行きたい」
とりあえずうなづいておく。
そもそもまだあっちで就職すると決まったワケですらないのに気が早いだろ。
「いいのか……?」
「……」
だから会話をさせろよ。
そんな気持ちがいい加減通じたのか、キラーが布の結び目を解いて身体を離した。
ようやく解放された俺は、第一声に想いやら苛立ちやら色々込めた。
「おれだって前から好きなんだよ! 黙って付いてこいよ!」
「本当にか……?」
「じゃなきゃ無理して同じ大学行かねェよ」
教師に頭下げてまで勉強しまくったのは誰のためだと思ってんだ。
結果的に親も喜んだしおれの為にもなったが、何よりキラーの為だ。
こいつを一人にはしとけなかった。
「お前は……おれがいなきゃ駄目だろ」
おれがそう言うと、キラーはまたおれに抱きついてきた。
ついでに手の布を外してくれたから、おれも抱きしめ返す。
「ありがとう、キッド……」
「おう」
しばらく無言で抱きしめあっていると、ふいにドアが開いた。
「キラー、話し合い終わったのか?」
「テメェには話し合いに聞こえたのか、あれが」
入ってきたのはヒートだった。どうやら外で様子を伺っていたらしい。
恐らくはキラーが本気で何かやらかしたら止めるつもりだったんだろう。
「なんかすごい告白だったな、二人とも」
「勝手に入って来ないでくれって言ったじゃないか……」
キラーが恥ずかしそうにしながら離れる。
やっぱお互い家を出ない事には進展できそうにない。
「いや、そろそろ出かけるからさ」
「おう、行ってこいよ。どうせワイヤーのとこだろ」
「まぁな。あんたもキラーに変なことするなよ」
そう言うと、ヒートは部屋を出て行った。変なことされてたのはこっちなんだがキラーにお咎めなしってどういうことだ。
「あいつホントお前に甘いよな……」
「……それは思う。なんであそこまでしてくれるんだろう」
「……まぁ、お前のこと好きなんだろ。色々と」
あいつも、キラーが仲間だったころの事を覚えてるから、ここまでしてる。
「そうか……ホントにいい人だな」
「おれもあいつなら信頼出来る。もちろんお前もな」
こんな事したって最終的におれを傷つけるハズがない、という確信はあった。
かつて仲間だったってのもあるが、一番の根拠は、記憶が無いはずなのにキラーはやっぱりキラーだったからだ。
「……ちょっと変なやつだがな……」
「……それは、おれの事なのか? キッド」
「普通は同居人のいる家で幼なじみを縛ったりしねェから」
おれの言葉を聞いて、キラーは少し落ち込んだ様子で言った。
「だって……好きなんだ」
「分かってる。幸せにしてやるよ」
そう言って頭を撫でてやると、キラーは嬉しそうに言った。
「ずっと、一緒にいような」
【後書き】
椿さん、リクエストありがとうございました!
カップリングはキドキラ、タイトルは『crazy』で、内容指定は現パロで少し狂ってる感じのものでした。
片思いか恋人って事だったので、片想いだと思ってたら両想いだったみたいなノリになりました。最後いちゃついてますが、リクエストに沿えてますでしょうか……。
気に入っていただければ幸いです。
良いなと思った方は是非→ 拍手
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